愛知医科大学における「具眼考究」の精神と理想の医師像分析
序論:建学の精神と現代医療が求める医師像の融合
現代医療の現場において、医師に求められる資質は極めて多岐にわたります。高度な専門知識と技術はもちろんのこと、患者の心理的背景を理解する人間性、多職種と協働するコミュニケーション能力、そして地域社会を支える公共心など、その要求水準は年々高まっています。本分析では、「10通りの理想の医師像」に対し、愛知医科大の教育理念、カリキュラム、臨床環境、および研究体制がいかにしてその実現を可能にするかを、徹底的に分析・検証するものです。
愛知医科大の教育の根底には、独自の学是である「具眼考究(ぐがんこうきゅう)」が存在します。この言葉は、江戸中期の画家・伊藤若冲の言葉に由来し、「確かな眼(具眼)」で物事の本質を見抜き、それを深く考え究める(考究)姿勢を指します。医学において「みる」という行為は、単に視覚的に病変を捉える(See/Look)ことにとどまりません。それは、病態を医学的に判断する「診る(Diagnose)」、患者の苦痛に寄り添いケアする「看る(Care)」、経過や変化を注意深く観察する「観る(Observe)」、そして社会的な背景や倫理的な問題までを含めて洞察する「視る(Inspect)」という、多層的な意味を含んでいます。
志望者が掲げる「病気だけでなく人を診る」「地域の暮らしを支える」「未来の医療を切り拓く」といった多様な理想像は、一見すると異なる能力を求めているように見えますが、その深層においてはすべて、この「具眼」の哲学によって統合されています。生物学的視点のみならず、心理的、社会的、経済的背景までを含めた「全人的」な視座を持つことこそが、愛知医科大が目指す医師のあり方であり、理想像すべての土台となっています。
以下、10の理想像を「ヒューマニズムと全人的医療」「高度医療と救命の最前線」「地域社会とチーム医療」「研究と未来への探究」の4つの主要な領域に分類し、愛知医科大の具体的な教育プログラムや環境がいかにしてその形成に寄与するかを詳述します。
第1章 ヒューマニズムと全人的医療の涵養
1. 「病気だけでなく、人を診る医師」への道程
建学の精神「具眼」の実践的展開
「病気だけでなく、人を診る」という理想は、現代医学教育において最も重視されるコンピテンシー(資質・能力)の一つですが、愛知医科大においては単なる倫理的スローガンにとどまらず、学是「具眼考究」として教育のDNAに深く組み込まれています。愛知医科大のアドミッション・ポリシーおよびディプロマ・ポリシーにおいても、単なる知識の蓄積ではなく、「自ら研鑽に励み」「社会貢献の自覚」を持つことが強く求められています。特筆すべきは、教育目標において「自然科学のみならず、その背景にある心理的・社会的諸問題をも含めて総合的に対応できる能力」の涵養が明記されている点です。これは、疾患を単なる臓器の故障として捉えるのではなく、生活者の人生における重大な出来事として捉え、その社会的・心理的影響までを見通す視点を養うことを意味します。
行動科学と早期体験実習によるパラダイムシフト
この理念を具現化するために、愛知医科大では低学年次より「プロフェッショナリズム」や「行動科学」のカリキュラムを体系的に導入しています。特に1学年次における「早期体験実習(1a, 1b, 1c)」は、医学知識が未熟な段階で敢えて医療現場や介護現場に身を置くことにより、医学的な「診断」の目を持つ前に、一人の人間として患者や利用者と向き合う原初的な経験を提供します。
2020年度および2025年度の実習報告によれば、学生はこの体験を通じて「医学生としての自覚」と共に「患者さんの生活背景を想像する力」の重要性を痛感しています。実習は段階的に構成されており、1aではシミュレーションを通じたコミュニケーションの基礎を、1bでは看護体験を通じて患者の療養生活の実際を、そして1cでは臨床科見学を通じて医師の業務と患者との関わりを観察します。看護師と共に患者のケアを行う過程や、医師が病気(Disease)を治療するだけでなく、病い(Illness)を抱えた人間の苦悩や希望に寄り添う姿を「具眼」で観察することは、座学では決して得られない「人を診る」感性を育みます。
社会的・倫理的判断力の育成
さらに、1・2学年次の行動科学から3学年次の社会医学系科目、そして4学年次の「医療と倫理」におけるディベート学習へと続くカリキュラムは、学生に正解のない問いに向き合う力を与えます。ここでは、医学的な正しさと患者の価値観が対立するような場面において、いかにして「人を診る」視点を維持しながら合意形成を図るかという、極めて実践的かつ高度な倫理的判断力が養われます。これは、「病気だけを診る」医師から脱却し、患者の人生そのものを尊重する医師へと成長するための不可欠なプロセスです。
2. 「何でも相談してもらえる、心の距離が近い医師」の育成
コミュニケーション能力の科学的習得と「傾聴」
「心の距離が近い」という資質は、しばしば個人の性格に依存するものと誤解されがちですが、愛知医科大ではこれを「コミュニケーション能力」という科学的なスキルとして定義し、教育しています。医学教育センターが主導する「医療面接実習」や「コミュニケーション演習」では、模擬患者(SP)に対する問診や対話のトレーニングが繰り返されます。
特に注目すべきは、愛知医科大の教育が単に「話す(Speaking)」技術ではなく、「聴く(Listening/傾聴)」技術を重視している点です。チーム医療実習の振り返りにおいて、学生たちが医師の役割を「傾聴」という漢字で表現した事例があります。彼らは「聴くことは医師の使命である」と考え、「人」「耳」「目」「心」の文字を組み合わせたデザインでその概念を表現しました。これは、愛知医科大の教育が「一方的な説明」ではなく「患者の声を受け止め、心を開かせる姿勢」を学生に深く植え付けている証左と言えます。
プロフェッショナリズムと自己省察
「何でも相談してもらえる」雰囲気は、医師自身の人間的深みと安定感に由来します。愛知医科大の教育理念には「教養豊かな人間性を涵養すること」が掲げられており、情緒と品格を兼ね備えた医療人の育成を目指しています。1学年次の「プロフェッショナリズム1a」では、「自らの生活習慣を客観的に評価すること」から始まります。これは、医師自身が心身ともに健康で、自己管理(セルフマネジメント)ができているからこそ、患者に安心感を与え、心の扉を開かせることができるという考え方に基づいています。
また、新入生研修におけるグループ討論では、「医学生として6年間をどう過ごすか」を議論し、それを「挑」「叶」「進」といった漢字一文字で表現する活動が行われます。こうした自己省察と他者との対話の積み重ねが、他者の痛みに共感し、心の距離を縮めることができる豊かな人間性を育んでいきます。
3. 「納得いくまで丁寧に説明し、不安を取り除ける医師」への成長
シミュレーション教育による「伝える力」の研鑽
患者の不安を取り除くためには、正確な医学知識と、それを患者が理解できる言葉に翻訳して伝える能力が不可欠です。愛知医科大には充実したシミュレーションセンターがあり、OSCE(客観的臨床能力試験)に向けたトレーニングだけでなく、実践的な患者対応能力を磨く場が提供されています。
特に4学年次には、共用試験(CBT/OSCE)の前後に集中的な実習が行われ、動画教材を用いた予習と段階的な学習により、知識を「説明できる言葉」に変換するプロセスを学びます。納得いくまで説明できる医師になるためには、学生自身が納得いくまで学び、試行錯誤できる環境が必要です。シミュレーション教育は、実患者に接する前に失敗を経験し、修正する安全な学習環境を保証しており、これが自信を持って患者に向き合える医師を育てます。
インフォームド・コンセントと共有意思決定
説明責任を果たす能力は、倫理観とも直結します。愛知医科大では「医療と倫理」に関するディベート学習などを通じ、正解のない問いに対して論理的に考え、他者に説明する訓練を行っています。例えば、終末期医療の選択や遺伝子診断の是非など、患者の人生を左右する重大な局面において、専門家としての見解を誠実に伝えつつ、患者の自己決定権を最大限に尊重する姿勢(Shared Decision Making)は、こうした倫理教育の中で培われます。
また、ボランティア活動への参加も推奨されており、病院ボランティアとして患者の案内やサポートを行う中で、医療者としての立場だけでなく、一人の人間として患者の不安に触れる機会も提供されています。これらの経験は、単に情報を伝達するだけでなく、患者の感情に配慮した「納得のいく説明」を行うための感性を磨く場となっています。
4. 「どんなに忙しくても、笑顔と優しさを忘れない医師」を支える基盤
心理的安全性と自己管理能力の育成
「笑顔と優しさ」を維持し続けることは、個人の精神論や忍耐力だけの問題ではなく、適切なストレスマネジメントと組織的なサポートの問題です。愛知医科大では、学生自身が精神的な健康を保てるよう、手厚い支援体制を整えています。医学教育センターの「学修支援部門」は、学生の学修意欲維持や成績不振者への支援を行うとともに、「学生開放スペース」を提供し、教職員と学生が共に学ぶコミュニティを形成しています。
さらに、産業保健科学センターなどでは「職場ストレスと抑うつ」「働く人々のメンタルヘルス」「疲労とストレスホルモンの関連」に関する専門的な研究が行われています。こうした研究知見は教育現場にも還元されており、学生は医学的な知識としてストレスのメカニズムを学ぶと同時に、自らのメンタルヘルス管理に応用することができます。学生時代から「自らのストレス状態を客観視し、適切に対処する(あるいは助けを求める)」能力(ヘルプシーキング行動)を身につけることは、将来、激務の中でも笑顔を絶やさない持続可能なキャリアを築くために不可欠です。
チーム医療における相互支援
多職種連携教育(IPE)において、「心理的安全性(Psychological Safety)」の概念が導入されている点も見逃せません。2024年度のIPE報告では、伴信太郎特命教授によるコラムで「Clarkの4—ステージ・モデル」が紹介されています。これは、チーム内で「仲間に入る(Inclusion Safety)」「学習者として尊重される(Learner Safety)」「提案できる(Contributor Safety)」「建設的批判ができる(Challenger Safety)」という段階を経て、心理的安全性が構築されることを示しています。
チーム内でお互いを尊重し、弱音や懸念を共有できる関係性があればこそ、医師は孤立せず、精神的な余裕を持つことができます。愛知医科大のIPEは、他職種へのリスペクトを学ぶと同時に、医師自身がチームに支えられていることを実感する場でもあり、これが「忙しくても優しさを失わない」強さに繋がります。
第2章 命の最後の砦:高度医療と救急の実践
1. 「最後の砦として、諦めずに命を救う医師」の育成
ドクターヘリと高度救命救急センターの存在
「最後の砦」としての医師像を最も象徴するのが、愛知医科大が誇る高度救命救急センターとドクターヘリの存在です。愛知医科大は地域における三次救急の要として機能しており、ドクターヘリの運航を通じて、一刻を争う重症患者の救命にあたっています。年間300回を超える出動実績(記事執筆時点)は、地域住民の命を守るための不断の努力を示しています。
「諦めない」姿勢は、精神論だけでなく、高度な技術と迅速な判断力に裏打ちされて初めて実現します。ドクターヘリの現場では、着陸場所の選定から患者の容体把握、搬送先の決定まで、瞬時の判断が求められます。このような極限状態での医療を学ぶことは、学生に対し「命と向き合う覚悟」を問う強烈な教育効果を持ちます。
IT技術と融合した実践的トレーニング
愛知医科大では、ドクターヘリ搭乗員向けの学習ソフトをIT企業(コア中部カンパニー)と共同開発するなど、革新的な教育手法を積極的に取り入れています。医師や看護師が救命処置を行う様子をスマートグラスやスマートフォンで動画撮影し、それを若手スタッフが教材として使用することで、現場の臨場感と判断のプロセスを追体験します。
この「空飛ぶ救急治療室」での疑似体験システムは、フライトドクターの視点を共有することを可能にします。「一人の経験を多くのスタッフが共有することで医療の質が高まり、最終的に助かる患者さんが増える」という寺島嗣明助教の言葉は、個人の経験を組織の知恵へと昇華させる愛知医科大の教育姿勢を表しています。こうしたトレーニングを通じて、学生はマニュアル通りの対応だけでなく、予期せぬ事態においても諦めずに最善手を模索する思考力を養います。
専門医プログラムとダブルボードの取得
救命のプロフェッショナルを目指す学生に対し、愛知医科大は大学院と連動した専門研修プログラムを提供しています。特に「ダブルボード(複数の専門医資格)」の取得を推奨しており、救急科専門医に加え、集中治療や外科系専門医などのサブスペシャルティを並行して学ぶことが可能です。
救急医療においては、搬送された患者の初期対応(ER)だけでなく、その後の根本治療や集中治療管理(ICU)までを一貫して行える能力が重要です。救急科専門医としての全体管理能力と、外科医や内科医としての専門治療能力を併せ持つ「ダブルボード」の医師は、まさに「最後の砦」として機能します。愛知医科大のプログラムは、過酷ではありますが、真に命を救い切る実力を備えた医師を育成するための最短かつ確実なルートを提供しています。
2. 「患者さんとその家族に、安心を与えられる医師」の深化
緩和ケアと全人的苦痛へのアプローチ
「安心」を与える医療は、救命だけではありません。治癒が困難な状況や、人生の最終段階においても、患者と家族に寄り添うことが求められます。愛知医科大には「緩和ケアセンター」が設置されており、身体的な痛みだけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛)に対応する教育が行われています。
緩和ケアの臨床実習では、オピオイドを用いた疼痛コントロールといった薬物療法の技術面に加え、患者や家族との対話、意思決定支援のプロセスを学びます。死生観に関わる深いテーマに向き合うことで、学生は「治すこと(Cure)」の限界を知りつつも、「支えること(Care)」の無限の可能性に気づきます。これは、第1章で述べた「人を診る」姿勢の究極の実践とも言えます。
睡眠医学等の専門領域によるQOL向上
また、「安心」の提供には、患者の生活の質(QOL)を脅かす特定の疾患への専門的対応も含まれます。愛知医科大では睡眠医学に関する実習も行われており、ナルコレプシーの診断に用いられる反復睡眠潜時検査(MSLT)などを通じて、昼間の眠気という生活上の大きな不安に対する診断・治療法を学びます。こうした特定の専門領域における深い知識と技術もまた、患者に「原因がわかった」「治療法がある」という大きな安心を与える要素となります。
家族を含めたケアの視点
4学年次の多職種連携演習(IPE 4)では、「在宅で生活する患者の症状悪化」というシナリオを通じ、患者本人の「家にいたい」という希望と、家族の「介護負担」という現実的な課題の板挟みについて議論します。ここで「一時的な入院(レスパイトケア)」を提案するといった、家族の生活までを含めた解決策を模索する経験は、極めて重要です。
2025年度の実習報告では、学生たちが「患者の希望を尊重するだけでなく、家族の負担も考慮した現実的な提案」にまで議論を深めたことが評価されています。将来、臨床現場で家族の不安を受け止め、具体的な解決策をもって安心を提供できる医師としての素養は、こうした演習を通じて育まれます。
第3章 地域社会とチーム医療のリーダーシップ
1. 「地域の暮らしを丸ごと支える、街の頼れる医師」の基盤
地域医療教育センターと広域連携ネットワーク
「街の頼れる医師」には、大学病院のような高度医療機関と、地域の診療所や介護施設を繋ぐコーディネーターとしての役割が求められます。愛知医科大の「地域医療教育センター」は、地域医療実習の中核を担い、学生が地域の医療現場に飛び込む機会を提供しています。
また、愛知県の「キャリア形成プログラム」に基づく地域枠制度を通じて、都市部からへき地に至る多様な医療機関とのネットワークを有しています。以下の表は、愛知医科大が連携する主な地域医療機関の一部です。
| 区分 | 病院名(例) | 特徴・立地 |
|---|---|---|
| 都市部・公的 | 名古屋市立緑市民病院、みよし市民病院 | 地域の中核病院としての機能 |
| 厚生連・拠点 | 豊田厚生病院、安城更生病院、海南病院 | 高度医療と地域医療の結節点 |
| へき地・離島 | 東栄町国民健康保険東栄病院、足助病院 | 山間部医療、地域包括ケアの最前線 |
| 専門医療 | 愛知県がんセンター愛知病院、国立病院機構東名古屋病院 | 特定疾患への対応と地域連携 |
これらのネットワークを活用し、学生は大学病院内では見えにくい「患者の生活の場」としての地域社会を肌で感じることができます。
生活者としての患者を理解する実習
地域医療実習では、単に病気を診るのではなく、その地域に特有の健康課題や、在宅医療の実際を学びます。早期体験実習において介護施設や訪問看護ステーションを見学することは、「暮らしを支える」とはどういうことかを具体的にイメージする契機となります。
高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らすための「地域包括ケアシステム」の中で、医師が果たすべき役割(医療的判断だけでなく、介護・福祉との連携調整)を学ぶことは、地域住民から信頼される「頼れる医師」への第一歩です。特に、へき地医療の実習報告などでは、限られた医療資源の中で工夫し、住民の健康を守る医師の姿に触れることで、地域医療のやりがいと責任を学びます。
2. 「チームの和を大切にし、全員の力を引き出せる医師」の涵養
6年間一貫した多職種連携教育(IPE)
愛知医科大の最大の特徴の一つが、低学年から高学年まで段階的に積み上げられる「多職種連携教育(IPE: Interprofessional Education)」です。医学部だけでなく、看護学部、さらには提携する他大学の薬学部、管理栄養学部などの学生と共に学びます。
- IPE 1(1年次): 多職種協働の概念理解。看護学部との合同授業を通じ、異なる専門職を目指す学生との対話を開始します。
- IPE 2(2年次): チーム医療実習。大学病院内の栄養部、薬剤部、臨床工学部、リハビリテーション部など18部署に分かれ、医師以外の職種の業務をシャドーイング(同行見学)します。他職種の視点から見た「医師の役割」を知ることで、独りよがりな診療姿勢を戒め、協調性を養います。
- IPE 3(3年次): 患者中心のチーム医療における自職種・他職種の役割の明確化。より具体的なケーススタディに取り組みます。
- IPE 4(4年次): 臨床場面を想定した実践的シミュレーション。在宅医療などの具体的な症例に対し、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士の卵たちがそれぞれの専門的知見を持ち寄り、最適なケアプランを策定します。
職種の壁を超えたリーダーシップと心理的安全性
このIPEプログラムにおいて、医学生には「リーダーシップ」の発揮が期待されますが、それは「命令する」リーダーシップではなく、「全員の力を引き出す」ファシリテーターとしてのリーダーシップです。 2024年度の実習報告では、医学生が看護・薬学・管理栄養学部の学生の意見を積極的に取り入れ、議論をまとめる姿が評価されています。
前述の「心理的安全性」の概念に基づき、職種間のヒエラルキーを超えて意見を言い合える環境を作ることは、医療安全の観点からも極めて重要です。愛知医科大のIPEは、「脱出ゲーム」のようなユニークな手法の導入も検討されるなど、学生が楽しみながら協力体制を学べるよう工夫されており、チームビルディングのスキルを自然に習得できる環境があります。
第4章 研究マインドと未来への貢献
1. 「常に学び続け、最新の治療を届けられる医師」の習慣化
具眼考究と探究心の継続
医学の進歩は日進月歩であり、医師免許取得はゴールではなくスタートに過ぎません。愛知医科大の「具眼考究」の精神は、生涯にわたって物事の本質を究め続ける姿勢を求めています。カリキュラム・ポリシーにおいても、博士課程の修了予定者の研究報告を聴き、ディスカッションに参加する機会が設けられており、学部生のうちから「研究=新しい知見の創出」の現場に触れることで、受動的な学習から能動的な探究へと意識を変革させます。
自己主導型学習とICT/AIリテラシー
最新の治療を届けるためには、膨大な医学情報の中から信頼できるエビデンスを選び取る能力が必要です。愛知医科大ではICTリテラシー教育や文章表現演習を通じ、生成AI(Generative AI)時代に対応した情報の取捨選択と論理的思考力を養っています。
1学年次の文章表現演習では、生成AIとうまく付き合いながら、本質的な文章力を養うことが目指されています。これは、AIに依存するのではなく、AIをツールとして使いこなし、自らの思考を深める訓練です。自ら疑問を持ち、調べ、解決する「自己主導型学習」の習慣は、将来どの診療科に進んだとしても、常に最新の知見をアップデートし続ける医師としての駆動力となります。
2. 「新しい治療法を見つけ出し、未来の患者さんも救える医師」への挑戦
リサーチ・クラークシップと研究環境
目の前の患者を救うこと(臨床)と、未来の患者を救うこと(研究)は、医学の両輪です。愛知医科大では「リサーチ・クラークシップ」や大学院との連携を通じ、学生が基礎医学研究に携わる機会を提供しています。
大学院教育要項には、以下のような具体的な研究テーマが示されており、これらは学部生の研究実習においても参照される高度な内容を含んでいます。
- 薬理学: 創薬標的探索、感覚免疫システムによる恒常性制御の解明。
- 細胞生物学: シグナル伝達および癌の分子機構に関する研究。
- 産業保健科学: 職場ストレスと抑うつ、メンタルヘルス不調者の職場復帰に関する研究。
また、「研究創出支援センター」が設置されており、若手研究者の育成や技術シーズの発掘、バイオバンクの活用など、研究活動を全面的にバックアップする体制が整っています。
臨床と研究の橋渡し(トランスレーショナル・リサーチ)
愛知医科大の強みは、臨床現場(病院)と研究施設(研究所)が密接に連携している点にあります。「総合医学研究機構」や「加齢医科学研究所」、「分子医科学研究所」などの附置研究所では、加齢医学や分子生物学といった最先端のテーマに取り組んでいます。
「未来の患者を救う」医師とは、臨床現場で感じた疑問(Unmet Medical Needs)を研究室に持ち帰り、基礎研究で得られた知見を再び臨床に還元できる医師です。愛知医科大の環境は、こうした「Physician Scientist(研究する臨床医)」を目指す学生にとっても理想的なフィールドを提供しています。学生時代から学会発表や論文作成に挑戦する機会があり、その成果は「学外実習報告会」などで共有されています。
結論:10の理想像を統合する愛知医科大学の独自性
以上の分析から、愛知医科大学は志望者が掲げる10通りの理想の医師像すべてに対し、具体的かつ重層的な教育ソリューションを提供していることが明らかになりました。
- 人間性の基盤: 建学の精神「具眼考究」と早期体験実習は、「人を診る」「相談される」「安心を与える」「笑顔を忘れない」医師の土台となる人間力と洞察力を育みます。特に「聴く力」を重視する教育や、メンタルヘルスへの科学的アプローチは、学生が燃え尽きることなく、長く患者に寄り添い続けるための強固な基盤となります。
- 臨床実践能力: 高度救命救急センターやドクターヘリ、充実したシミュレーション教育は、「命を救う最後の砦」「説明上手な医師」に必要な確かな技術と判断力を養います。IT技術を活用した先進的なトレーニングは、現場のリアリティを教室に持ち込み、実践力を飛躍的に高めます。
- 社会との連携: 広範な地域医療ネットワークと徹底した多職種連携教育(IPE)は、「地域を支える」「チームの力を引き出す」医師としての社会的実践力を高めます。心理的安全性を重視したチームビルディングの学びは、将来どのような組織に属してもリーダーシップを発揮するための武器となります。
- 知の探究: 大学院と連携した研究環境と生涯学習の風土は、「最新治療を届ける」「未来の医療を創る」医師としての知的探究心を満たし続けます。ICTやAIを活用した新しい学習スタイルは、変化の激しい現代医療に適応する能力を保証します。
特筆すべきは、これらが個別のプログラムとして分断されているのではなく、「具眼(本質を見る眼)」という一つの哲学の下で有機的に統合されている点です。患者の細胞レベルの病変(研究・最新治療)から、その人が置かれた社会環境や家族の心情(地域・人間性)までを、一つの連続した文脈として捉える視点。これこそが、愛知医科大が育成しようとしている医師の姿です。
愛知医科大学での6年間は、志望者が抱く理想像を、単なる夢から確固たる現実へと変えるための、挑戦と発見に満ちた時間となるでしょう。愛知医科大は、多様な理想を持つ学生一人ひとりの情熱を受け止め、それを社会が求める真の医療人へと昇華させるために適した環境であると結論付けられます。
付録:データとエビデンスに基づく教育リソース一覧
| 理想の医師像 | 愛知医科大の対応する教育・施設・理念 |
|---|---|
| 1. 人を診る | 建学の精神「具眼考究」、行動科学、早期体験実習(1a-1c) |
| 2. 相談される | コミュニケーション演習、プロフェッショナリズム教育、「傾聴」の重視 |
| 3. 最後の砦 | 高度救命救急センター、ドクターヘリ、ダブルボード研修、スマートグラス活用 |
| 4. 安心を与える | 緩和ケアセンター、医療倫理ディベート、家族支援のIPE、睡眠医学 |
| 5. 地域を支える | 地域医療教育センター、地域枠ネットワーク、訪問看護実習 |
| 6. 学び続ける | ICTリテラシー、自己主導型学習、生成AI活用教育、生涯学習の基礎 |
| 7. チームの和 | 多職種連携教育(IPE) 1~4、心理的安全性(Clarkモデル)、看護・薬学部連携 |
| 8. 説明できる | シミュレーションセンター、OSCE、動画教材活用、ボランティア活動 |
| 9. 未来を救う | リサーチ・クラークシップ、研究創出支援センター、大学院連携、附置研究所 |
| 10. 笑顔・優しさ | 学修支援部門、学生開放スペース、メンタルヘルス研究還元、セルフマネジメント |
引用文献
- 教育理念等 | 愛知医科大学
- 3つのポリシー | 愛知医科大学
- 医学教育センター | 愛知医科大学
- 医学教育センターニュース - 愛知医科大学
- 病院ボランティアの募集について - 愛知医科大学
- 産業保健科学センター | 愛知医科大学
- 専門研修プログラム - 入局をお考えの方へ - 愛知医科大学 救命救急科
- ヘリ救急医療の動画撮り共有 愛知医大など学習ソフト<中日新聞
- 教 育 要 項 学 生 便 覧 - 愛知医科大学
- 研究創出支援センター | 愛知医科大学
- 愛知県地域枠医師 キャリア形成プログラム