愛知医科大学(医学部)小論文 2018年度~最新入試 傾向と対策
傾向と対策の概要:
愛知医科大学の小論文試験は、長期間にわたり形式的な安定性を保ちつつ、出題テーマにおいては、高度に抽象的・哲学的・倫理的な内容が求められる傾向があります。単なる時事問題や医療倫理に留まらず、人間の本質、社会の構造、価値判断、心理的葛藤といった深いテーマを、具体的な寓話や著名な文献の引用を通じて考えさせ、受験生自身の意見とその根拠を600字以内という制限内で明確に記述する能力が試されています。
試験形式の安定性と構成
愛知医科大学の小論文形式は、2018年度以降、極めて高い安定性を示しています。
| 制限時間 | 一貫して60分です。 |
|---|---|
| 字数制限 | 設問に対する解答は、基本的に600字以内で記述することが求められています。 |
| 基本構成 | 各実施日(通常2日間設定されている)ごとに、異なるテーマに基づいた一つの小論文課題が出題されます。 |
| 解答形式 | すべて横書きであり、句読点は1字として数えるという指示が共通しています。 |
試験形式の大きな変化
2018年度から最新年度までの期間において、試験形式(時間、字数、構成)に大きな変更は見られません。一貫して60分・600字の論述形式が維持されています。
出題分野や出題テーマの傾向
出題される分野は多岐にわたりますが、共通しているのは、倫理、哲学、社会心理、そして人間の価値観に関する深い考察を求める点です。
1. 倫理的ジレンマと価値判断
- 倫理的な選択/帰結:他者の犠牲の上に成り立つ願い(2018年度)、負債解消のために知的障害のある兄弟の遺産配分を操作するかどうか(2020年度)。
- 価値の定義:オンラインで購入した祝辞の価値は落ちるか、落ちないか(マイケル・サンデル引用、2019年度)。
- 無意味な労働:意味のない作業をしている同僚にその事実を伝えるべきか、およびそれに類似した状況を挙げる課題(2024年度)。
- 意図しない悪影響:よかれと思ってかけた親切な言葉が、かえって人を傷つける(2025年度)。
2. 哲学・思想・社会構造に関するテーマ
- 原因論と歴史観:E. H.カー『歴史とは何か』を引用し、ある事件の原因特定をめぐる議論に対する意見を述べる(2021年度)。
- 国の必要性:人間が「国」を持たなければならない理由、および「無国籍者」の捉え方について考察する(谷川俊太郎引用、2021年度)。
- 知識と実践:水車を回す男の寓話から教訓を説明し、自身の考えを述べる(実践的知識と原理論的知識のバランス、2023年度)。
- 存在と余暇:クリストファー・ロビンが言う「なにもしないでいる」ことについての考察(2024年度)。
3. 心理・人間関係・社会のバランス
- 家族のトラウマと対応:「ファミハラ」の概念を含む家族の悩み相談に対し、アドバイスを提供する(國分功一郎引用、2022年度)。
- 愛と自己中心性:R. D. レインの文章を引用し、自己満足的な愛に対する相手の感情と、その後の関係の予測を創作する(2022年度)。
- 健康な社会の定義:アンパンマンとばいきんまんの関係を例に、拮抗する敵対者(ばい菌、悪)が存在することの必要性と、「健康な社会」のバランスについて論じる(2025年度)。
4. 文学・芸術的テーマ
- 詩歌の鑑賞:短歌(2019年度) や俳句(2023年度) を鑑賞し、好意的意見と批判的意見を挙げた上で、自身の意見で締め括る形式も出題されています。
- 育成論:若手俳優の育成方法として、生きたニワトリの首を切る行為を強要することへの考えを問う(2020年度)。
特徴的な傾向
- 具体的事例に基づく高度な抽象化:出題は、壺の精の話 や水車の話、あるいは現代的な悩み相談 といった具体的な設定から始まり、そこから普遍的な倫理・哲学的な問いを導き出す構成が特徴的です。
- 権威ある文献からの引用:マイケル・サンデル、E. H.カー、R. D. レイン、國分功一郎 など、著名な哲学者や社会学者の著作、または寓話、詩歌 からの引用が頻繁に使用されています。
- 多面的な視点の要求:「好意的意見と批判的意見を記述し、最後にあなた自身の意見で締め括る」といった、複数の立場や論理構造を理解し、整理して提示する力が求められています。
- 「ストーリー創作」や「未来予想図」の要求:論理的議論だけでなく、設定された条件の中で論理的に破綻しない創造的な文章作成能力が求められることもあります。
対策
愛知医科大学の小論文で高得点を得るためには、以下の対策が有効です。
- 論理的構成力の強化:600字という短い字数で、問いに対する答え、その根拠、そして深い考察を過不足なくまとめる訓練が必要です。
- 哲学的・倫理的テーマへの慣れ:倫理的ジレンマ、幸福論、自由と責任、社会のバランスといったテーマについて、日頃から多角的に考察する習慣をつけます。
- 文献の深い読解訓練:引用された文章や寓話の核心的なメッセージ(教訓)を正確に把握し、現代社会や自身の考えに結びつけて応用する練習が必要です。
- 多角的視点の涵養:「必要悪」や「健康な社会における敵対者の存在」 のような、一見矛盾する概念を理解し、客観的に論述する訓練が重要です。
この試験は、受験生が高度な抽象的思考力を持ち、複雑な人間社会を理解した上で医療に携わろうとしているかを測る試金石とも言えます。それは、まるで「複雑な人間関係のパズルのピースを一つずつ手に取り、その役割と全体像を60分で説明する」ような作業だと言えるでしょう。