東京慈恵会医科大学 一般選抜 出題傾向 生物
傾向と対策の概要
東京慈恵会医科大学の生物は、2018年度から最新の2025年度に至るまで、出題形式の安定性と内容の高度な専門性が特徴です。試験は複数の大問(通常4題)で構成され、広範な生物学の知識を問う一方で、特に実験データを読み解く能力や、複雑な計算問題、および詳細な論述による説明能力を重視する傾向が顕著です。
解答・解説の講評からも、「短時間に処理できるかどうかがポイント」、「知識問題なので、知らないと無理であった」、「時間をかければ正解に達することができる」といったコメントが多く見られ、正確な知識と迅速な処理能力の両方が合格に不可欠であることがわかります。
試験形式の安定性と構成
| 時間と科目 | 2科目で120分という時間設定は一貫しています。 |
|---|---|
| 問題構成 | 例年、大問4題構成が続いています。 |
| リード文の長さ | 各大問は、長いリード文(背景説明や実験条件)に基づいた出題が多く、これを正確に読み解くことが前提となります。 |
| 設問形式 | 空所補充、選択肢、計算、グラフの選択や作成、そして高度な考察を要する論述問題など多岐にわたります。特に計算問題の難易度と分量が合否を分けます。 |
試験形式の大きな変化
大問数や試験時間の構造的な変化は見られませんが、出題内容の質的な変化として、実験データの詳細な分析と論理的な記述を求める傾向が強化されています。
- 2019年度:腎臓の機能に関する問題では、複数のグラフを比較しながらイオンと水の再吸収を考察させるなど、複雑な図表の活用が必要です。
- 2022年度・2025年度:肥満マウスを用いたレプチン遺伝子に関する問題や、線虫の走化性と学習に関する実験考察など、実験結果から論理的に結論を導き出す力が求められる問題が頻出しています。
- 時事テーマ:2024年度には、新型コロナウイルス感染症の流行を反映したパルスオキシメーターを用いた酸素運搬に関する問題が出題されるなど、時事的な医学関連テーマが取り入れられることがあります。
出題分野や出題テーマの傾向
出題は高校生物の全範囲から偏りなく行われますが、特に以下の分野が頻出または深く掘り下げられています。
1. 代謝とエネルギー
- 呼吸、発酵、呼吸商(RQ)計算。
- アロステリック酵素など、酵素反応の制御機構。
- 脂肪やタンパク質の代謝やATP生産量に関する詳細な計算。
2. 分子生物学・遺伝情報
- DNAの複製、PCR、遺伝子組換え技術(バイオテクノロジー)。
- 遺伝暗号の解読や、DNA修復のメカニズムと頻度に関する計算。
- 大腸菌の遺伝子発現制御(Lacオペロン)など、原核生物の機構。
3. 恒常性と動物生理
- 体温調節(恒温動物、視床下部)とホルモン制御(アドレナリン、甲状腺ホルモン)。
- 腎臓の構造と機能(水、グルコース、クレアチニンの再吸収)。特に、尿細管でのグルコース再吸収の最大値に関する計算問題は頻出です。
- ヘモグロビンと酸素解離曲線(胎児型、成人型、ミオグロビン)。
- 神経と興奮の伝導(活動電位、イオンチャネル、シナプス)。
4. 発生と細胞生物学
- 発生学:ウニ、カエル、ショウジョウバエを比較した誘導や分節遺伝子(ホメオティック遺伝子)のテーマ。教科書外のショウジョウバエの初期発生が出題されることもあります。
- プログラム細胞死(アポトーシス):発生過程や植物の落葉との関連。
5. 生態と進化
- 集団遺伝学(ハーディ・ワインベルグの法則、伴性遺伝病、ABO型)に関する計算問題。
- 生態系のエネルギー収支や物質循環(窒素同化、食物網)。
- キーストーン種、撹乱、ニッチの分割など生態学の概念。
6. 植物生理
- 光合成の機構(光化学系、Rubiscoの性質)。
- 光周性、フィトクロム、フロリゲンといった高度な制御機構。
- 気孔の開閉と光受容体(フォトトロピン、クリプトクロム)の役割。
特徴的な傾向
- 医学・実験系テーマの重視: 遺伝子組換え技術、遺伝病(鎌状赤血球貧血とマラリア抵抗性)のメカニズム、体温調節、肥満とレプチンなど、医療に直結するテーマが頻繁に出題されます。
- 知識の「深化」と「複合化」: 単純な用語暗記ではなく、背景にあるメカニズムや、特定の条件(温度、pHなど)に依存した分子の機能変化を深く問われます。
- 難易度の高い計算問題: 集団遺伝学の遺伝子頻度、エネルギー代謝、DNA突然変異の頻度計算など、正確さと時間を要する計算が合否を左右します。
- 教科書外の専門知識: 植物の生活環、ミツバチの血縁度、線虫の学習など、専門的な研究手法の理解を求める問題が混じることがあります。
対策
合格を確実にするためには、以下の3点に重点を置いた対策が必要です。
① 基礎知識の完璧な定着と体系化
教科書の全分野を網羅的に学習し、基本用語や現象の仕組みを正確に理解する。特に、生理学(恒常性)と分子生物学は重点分野です。「適切なものをすべて選ぶ」問題や、「過不足なく選ぶ」問題で失点しないよう、知識の確認を徹底します。
② 実験データの分析と論述力の強化
与えられたグラフや表から情報を抽出し、字数制限に従って論理的に説明する練習を繰り返す。知識をただ羅列するのではなく、「なぜそうなるのか?」というメカニズムを根拠に基づいて説明できる力が重要です。
③ 計算問題と時間配分の習熟
ハーディ・ワインベルグや代謝計算など、頻出パターンを素早く解けるよう訓練する。試験全体を通して時間が厳しいため、エキソンサイズや復帰変異の計算など、時間がかかる問題を見極めて取捨選択する訓練が不可欠です。
例え話:東京慈恵会医科大学の生物の対策は、まるで「精密機械の技術者」になる訓練に似ています。ただ部品(知識)の名前を知っているだけでなく、その部品がなぜ特定の条件下で動き(実験考察)、その動きの結果、全体のシステムがどのように変化するかを正確に計算し(計算問題)、さらにその複雑な動作のプロセスを論理的な設計図(論述)として描き出せる能力が求められているのです。