杏林大学 一般選抜 出題傾向 物理
傾向と対策の概要
杏林大学医学部の物理試験は、試験形式の大きな変更がなく安定している一方、物理学の全分野から高度な知識と深い理解を問う問題が毎年出題されています。
出題内容の幅が広く、力学、熱力学、波動、電磁気学、原子物理の全領域を網羅的かつ深く理解していることが求められます。特に、複数の物理法則や概念を組み合わせた複雑な設定での応用力や、詳細な計算能力が試されます。
試験形式の安定性と構成
- 試験時間と科目数: 2科目で100分という形式は、2018年度から2025年度まで一貫して安定しています。
- 問題構成: 通常、大問4題(I、II、III、IV)で構成されています。各大問は複数の小問に分かれており、計算問題や、解答群から適切な選択肢を選ぶ形式(グラフの選択、大小関係の比較など)が多く用いられています。
- 解答形式の要求: 2018年度では有効数字3桁での解答が求められていましたが、2019年度以降は一貫して有効数字2桁での解答が主流となっています。
試験形式の大きな変化
全体的な形式(科目数、時間、大問数)には大きな変化は見られません。
唯一、数値解答の指定に変化があり、2018年度の「有効数字3桁」から、2019年度以降は「有効数字2桁」に切り替わっています。これは解答の精度要求に関するわずかな変更ですが、近年の入試においては「有効数字2桁」が標準的であると認識されます。
出題分野や出題テーマの傾向
出題は物理の主要4分野(力学、熱力学、波動、電磁気学、原子物理)からバランスよく、かつ深く問われる傾向があります。
力学 (Mechanics)
- 振動・単振動: ばねにつながれた物体の運動や、おもりとばねによる連成振動(2018年度、2019年度)、摩擦を伴う単振動(2019年度、2025年度)など、運動方程式とエネルギー保存則の応用が頻出です。
- 衝突と運動量保存: 2物体間の衝突(2023年度、2024年度)や、床との衝突を含む複雑な運動(2021年度)が出題されています。
- 力のつりあいとモーメント: 剛体のつりあいや回転(2018年度、2024年度)、重心の計算(2022年度)など、計算が煩雑になる問題が含まれます。
熱力学・波動 (Thermodynamics and Waves)
- 熱力学過程: 理想気体の状態変化(A→B→C→Aのサイクルなど、p-Vグラフ分析)や、内部エネルギーの変化、仕事、熱量の計算(2018年度、2019年度、2022年度)が繰り返し出題されています。
- 波の現象: ドップラー効果(2019年度、2024年度)、薄膜による光の干渉(2020年度、2022年度)、弦の振動と定常波(2023年度)など、基本的な波動現象の理解が求められます。
電磁気学 (Electricity and Magnetism)
- 回路: キルヒホッフの法則を用いた複雑なDC回路解析(2018年度)、LC共振を含む交流回路(2019年度)、コイルを含む直流過渡現象(2020年度)、ブリッジ回路やダイオードを含む回路(2025年度)など、回路に関する多岐にわたる問題が出題されます。
- コンデンサー: 誘電体や金属板の挿入による容量や電位差の変化(2018年度)、複雑なコンデンサーの接続回路(2022年度)が出題されます。
- 電磁誘導と磁場: 磁場中を動く導体棒の起電力(2019年度)、誘導起電力のグラフ解析やローレンツ力(2023年度、2024年度)などが出題されます。
原子物理 (Modern Physics)
- 核物理: 質量欠損と結合エネルギー(2018年度、2025年度)、放射性崩壊(α崩壊、β崩壊)、半減期計算(2019年度、2021年度、2022年度、2025年度)、核反応式(2018年度、2020年度、2023年度)など、医学部として重要な分野が毎年出題されています。
- 量子現象: X線発生、光電効果(2019年度、2022年度)、コンプトン効果(2023年度)、電子の波動性(2020年度)、ボーアモデル(2024年度)など、計算を伴う問題が多いです。
特徴的な傾向
- 法則の厳密な理解を問う問題が多い: 単に公式を適用するだけでなく、キルヒホッフの法則、エネルギー保存則、力のモーメントのつりあいなど、基本法則を複雑な図形や運動の状況に適用させる能力が求められます。
- 物理モデルの理解: 導体内の自由電子の運動をモデル化してオームの法則を導出する問題(2021年度)や、ソレノイドの自己インダクタンスや相互インダクタンスを定義から理解しているか問う問題(2020年度)など、現象の背後にある理論的モデルの理解を問う出題が見られます。
- グラフ選択問題の多用: 電磁気学(コンデンサー挿入時の電場・電位、誘導起電力の時間変化)や力学(単振動の変位・速度のグラフ)など、計算結果だけでなく、物理量の時間的・空間的な変化を定性的に理解し、正確なグラフを選択させる形式が頻繁に用いられています。
対策
- 全分野の網羅的な学習と計算練習: 力学、電磁気学、熱力学、波動、原子物理のすべての分野を漏れなく学習する必要があります。特に、原子物理は毎年出題されているため、核反応や半減期、量子論の基本計算を確実に行えるようにすることが重要です。
- 複雑な問題設定への対応力強化: 複数の物体が関わる運動(連成振動、衝突)や、抵抗・コイル・コンデンサーが混在する回路、誘電体が関わる問題など、複合的な知識を要求される問題を集中的に練習し、法則を適用する訓練を積むべきです。
- 定性的な理解の徹底: 計算結果だけでなく、「スイッチを閉じた直後」や「十分時間が経過した後」の回路の状態変化、「誘電体挿入時」の電場や電位の変化、単振動における中心位置や振幅の決定など、現象の物理的意味や極限的な状況を理解することが、グラフ問題や選択問題への対応に不可欠です。
- 有効数字2桁に慣れる: 2019年度以降の標準的な要求である有効数字2桁での計算処理に慣れ、正確に解答する習慣をつけることが求められます。
この試験は、物理学を専門とする者が行う実験や解析に似ています。多くの複雑な変数が絡み合った状況下で、基本となる少数の物理法則(運動量保存則やエネルギー保存則、キルヒホッフの法則など)を道具として使いこなし、現象を正確に分析し、結果を導き出す能力が問われています。これは、まるで複雑に絡み合ったロープを解くように、どの結び目(法則)をどの順番で緩めていけば全体が解明できるか、という論理的な思考力が試されていると言えるでしょう。