東京医科大学 一般選抜 出題傾向 小論:2020年度~2025年度の傾向と対策
傾向と対策の概要
東京医科大学の小論文は、一貫して人文科学的・哲学的なテーマを出題しています。受験生には、抽象的な文章を深く読解する力と、人間の存在、苦悩、倫理観といった高度なテーマに対して、自身の考えを600字以内で論理的に構成する力が求められています。
対策としては、知識量よりも、提示されたテーマを医学や社会の文脈で再構築する思考力の養成が重要です。
試験形式の安定性と構成
提供された2020年度から2025年度までの小論文の形式は、高い安定性を示しています。
- 試験時間: 60分で固定されています。
- 字数制限: ほとんどの年度で600字以内という制限が課されており、2020年度は400~600字以内、その他の年度は「600字以内」が基本です。
- 構成: 必ず、著名な作家や研究者の長文の引用を題材とし、その内容を踏まえて特定の設問に答える形式です。
試験形式の大きな変化
試験時間や字数といった基本的な形式に大きな変化はありませんが、設問の構造に細かな変化が見られます。
多角的設問の増加
2024年度の設問は、「①」「②」「③」と具体的に三つの小問に分かれており、2025年度も「定義説明」と「意見論述(経験を含む)」の二部構成となっており、受験生に対して複数の問いに体系的に答えることを明確に求めています。
これは、単なる感想文ではなく、論理的な分析能力をより厳密に測ろうとする意図がうかがえます。
出題分野や出題テーマの傾向
出題テーマは、人間としての本質的な課題や、社会、他者との関係性に関わるものです。題材は、小川洋子氏、松沢哲郎氏、鶴見俊輔氏、楠本多嘉子氏、蓑部明子氏、鷲田清一氏など、人文科学や倫理学の分野で著名な人物の著作から選ばれています。
特に繰り返し見られる傾向は、「境界線(区別)とアイデンティティ」、および「苦悩との向き合い方」です。
| 年度 | 題材となったテーマ(キーワード) | 関連する人間的・倫理的な側面 |
|---|---|---|
| 2020年度 | 苦しみから生まれる「物語の尊さ」 | 悲しみからの回復、経験の意義化 |
| 2021年度 | 「人間特有の苦しみ」 | 人間と動物の区別、意識のあり方 |
| 2022年度 | 「紋切型でない言葉」 | コミュニケーションの本質、自己表現 |
| 2023年度 | 困難な状況における「死に切る」ことの意味 | 尊厳、生と死、病との向き合い方 |
| 2024年度 | 認知症による人や物との「区別」の困難さ | 認知の境界線、社会における困難と苦しみ |
| 2025年度 | 「存在」と「演技」の区別、制服と属性 | アイデンティティ、自己と役割 |
特徴的な傾向
医学知識の非要求
2024年度の設問には、「(考えた事柄が必ずしも医学的に正確である必要はありません。あなたがこれまでに学んだこと、経験したこと、考えたことを活かして以下の点を考えてください。)」という特筆すべき注意書きがあります。
これは、医学的な専門知識よりも深い洞察力と倫理観を評価していることがわかります。
自己経験と社会状況との結合
設問では、抽象的なテーマ(例:「紋切型でない言葉」、「存在と演技」)を、自身の経験や社会の状況と結びつけて論述することが具体的に要求されています。
出題分野の深さ
題材の文章は、哲学や批評の要素が強く、抽象的な概念の定義や本質的な問いかけが中心です(例:「存在と演技が厳密には区別できないだろう」)。
対策
上記の傾向を踏まえると、対策は以下の点に集中すべきです。
- 基礎となる読解力の強化: 鷲田清一氏や鶴見俊輔氏のような現代日本の哲学者や批評家の著作に触れ、抽象度の高い議論を正確に理解し、筆者の主張の核を要約する練習が必要です。
- 概念の定義と具体化の訓練: 設問で問われる抽象的なキーワード(例:「死に切る」、「区別」、「存在と演技」)に対し、自分なりの明確な定義を与えた上で、それを医療や社会の具体例(自身の経験を含む)に落とし込み、説得力を持たせる練習が不可欠です。
- 時間内での論理構成: 60分かつ600字という厳しい制限内で、多岐にわたる設問(2024年度のように3つの問い、2025年度のように定義と意見)全てにバランス良く答える練習を重ね、導入・本論・結論を過不足なくまとめる構成力を養うことが重要です。
総括: この小論文で求められる能力は、あたかも複雑な医療倫理のカンファレンスで、与えられた情報(引用文)を分析し、多角的な視点(設問)から論理的かつ簡潔に自分の意見を述べる能力に似ています。