東邦大学 一般選抜 出題傾向 物理
東邦大学医学部の物理は、一貫して標準的からやや難に位置づけられる典型問題を中心に出題されています。出題分野に偏りがなく、力学、電磁気、熱力学、波動、原子物理の全分野からバランスよく出題され、受験生の総合的な物理の力を測る良問が多いと評価されています。
最大の課題は時間的制約の厳しさです。物理は他の1科目と合わせて120分で解答する必要があり、問題文が長く、複雑な文字計算を要求される問題が多いため、全問に余裕をもって取り組むのは非常に困難です。
試験形式の安定性と構成
- 試験時間と科目:物理は他の1科目(化学または生物)と合わせて120分で行われます。
- 問題構成:大問形式の出題が続き、年度によって6題から7題で構成されています。
- 小問数:小問数は年度により若干の増減が見られますが、比較的多めです。2018年度は26問、2019年度は25問、2024年度は31問と小問数が多くなっています。
- 解答形式:全て選択肢形式で、記述式は確認されていません。
試験形式の大きな変化
大問数や試験時間といった根本的な形式に大きな変更はありませんが、近年(2024年度)は小問数の増加傾向が指摘されています(31問)。これは、限られた時間内での解答の迅速性と、正確な時間配分の重要性をさらに高めています。
出題分野や出題テーマの傾向
出題分野は幅広く、どの分野も基礎知識をベースに高い応用力が求められます。
| 分野 | 頻出テーマ(例)と傾向 | 該当年度(例) |
|---|---|---|
| 力学 | 単振動 (SHM):2物体単振動、鉛直ばね振り子の台からの分離、摩擦を伴う減衰振動、断熱変化によるピストンのSHMなど。 衝突/運動量保存:摩擦がある斜面上の2物体、壁と衝突し再び衝突する運動、箱の中での衝突と相対運動。 円運動/回転:円錐容器内の運動、水平円板上の物体の回転と転倒/滑り出しの条件。 相対運動:等加速度運動する台からの斜方投射。 |
2018, 2019, 2021, 2022, 2023, 2024, 2025 |
| 電磁気 | コンデンサー回路:スイッチの切り替え、誘電体の挿入/引き抜きに伴う静電エネルギーや電荷の変化(電気量保存則の適用)。 荷電粒子の運動:一様な電場や磁場中での運動(重力との融合含む)。 交流回路:RLC直列回路、抵抗・コイル・コンデンサーを個別に交流電源に接続した場合の位相関係やリアクタンス。 電磁誘導:変化する磁場中を移動するコイルの運動とジュール熱。 静電場:導体球と球殻による電位と電場(接地による基準変化)。 |
2018, 2019, 2021, 2022, 2023, 2024, 2025 |
| 熱力学 | 熱力学第一法則と状態変化:P-V図、V-T図を用いたサイクル過程の仕事、熱量、内部エネルギー計算。 分野融合:ばね付きピストンによる膨張、断熱変化(ポアソンの法則)とピストンの単振動。 気体の混合:断熱壁で仕切られた容器内での混合。 気体分子運動論:平均運動エネルギーは温度のみに依存するなどの基本知識。 |
2018, 2019, 2020, 2021, 2022, 2023, 2024, 2025 |
| 波動 | ドップラー効果:風の影響や、移動する反射板、移動する音源が反射音を観測するケース。 干渉:くさび形空気層による干渉、クインケ管による干渉。 幾何光学:プリズムの屈折/全反射、組み合わせレンズによる作図と倍率計算。 定常波:固定端反射。 |
2018, 2019, 2020, 2021, 2022, 2023, 2024, 2025 |
| 原子物理 | 量子条件:ボーアの原子模型(軌道半径、エネルギー準位、放出光の波長)。 X線:X線発生の最短波長、ブラッグ反射。 核物理:核崩壊における運動エネルギーの分配、α線散乱。 |
2018, 2020, 2023, 2024 |
特徴的な傾向
高度な計算処理能力の要求
出題される現象は教科書レベルの基本を逸脱しないものの、解答の選択肢が複雑な文字式や分数で示されることが多く、計算ミスが許されない高い正確性が求められます。原子物理(ボーアモデル)や光の屈折、力学の衝突問題などでこの傾向が顕著です。
力学的な条件設定の複雑化
力学では、単なる現象の理解だけでなく、「離れない/たるまない」(円運動の条件)や、摩擦力が運動方向によって切り替わる減衰振動、相対的な慣性力や見かけの重さの考察など、物理的な制約条件を正確に立てる能力が問われます。
電磁気における「変化」の重視
コンデンサー回路では、スイッチの切り替えや誘電体の挿入/引き抜きといった「状態が変化する」際の電荷の移動、エネルギーの変化、外力の必要性など、過渡現象や保存則の適用を深く問う傾向が強いです。
分野融合問題による論理的思考力の確認
特に熱力学は力学(ピストン、ばね、単振動)や、電磁気は古典力学(重力や遠心力)との融合問題が常態化しており、複数の物理法則を論理的に組み合わせて適用する能力が試されます。
対策
過去問演習による時間感覚の涵養
120分で2科目を解く必要があるため、過去問を使って時間配分のシミュレーションを徹底することが不可欠です。各問題への深入りを避け、確実に得点できる問題を見極める訓練が必要です。
基本原理に基づく複雑な文字計算の反復
公式の適用だけでなく、文字式の誘導や複雑な分数の処理をミスなく行うための計算トレーニングが非常に重要です。
力学・電磁気の重点強化と全分野の網羅
頻出である力学と電磁気(特に単振動、衝突、コンデンサー回路、荷電粒子の運動)の典型問題は、一度解いたことがある状態にすることが求められます。また、原子物理や波動など、手薄になりがちな分野も基本的な内容から応用まで幅広くカバーする必要があります。
物理的条件(臨界条件)を伴う問題の克服
「糸がたるまない条件」や「板から滑り出さない条件」「転倒しない条件」など、物理的な制約を不等式や力のつり合いから正確に導出するタイプの問題に習熟することが、高得点に繋がります。
東邦大学医学部の物理試験は、例えるならば、「時間制限のある複雑なパズル」です。ピース(基礎知識)は標準的ですが、それを組み上げるための手順(計算・論理展開)が長く複雑であり、しかもタイマーが非常に短く設定されています。正確に、そして速やかにピースを組み立てる訓練こそが、合格への鍵となります。