東邦大学 一般選抜 出題傾向 生物
傾向と対策の概要
東邦大学医学部の生物試験は、基礎知識の確実な習得を前提としつつ、それを応用する高度な実験データやグラフの読解力・論理的な考察力を強く要求する傾向が続いています。特に、初見の実験設定や複雑なデータに直面した際でも、「知らないから分からない」と諦めずに、与えられた情報から結論を推理する能力(データ分析能力)が合否を分けます。また、計算問題も頻繁に出題され、正確かつ迅速な処理能力が求められます。
試験形式の安定性と構成
試験は一貫して、2科目120分で行われており、形式自体は安定しています。各大問は、長文のリード文と詳細な図表や実験結果が提示され、これらを深く理解した上で設問に答える形式が中心です。
試験形式の大きな変化
資料の範囲内(2018年度~2025年度)において、試験時間や大問数など、試験の構造自体に大きな変更があったという記述は見られません。出題傾向の一貫性は、与えられたリード文や図表を基に考察させるという、東邦大学医学部特有の出題姿勢にあります。
出題分野や出題テーマの傾向
出題分野は広範ですが、医学に関連する分野や、実験・考察が絡みやすい分野が特に深く問われます。
分子生物学・遺伝情報
- 遺伝子操作・技術:PCR法、cDNAライブラリー、制限酵素による地図作成(遺伝子クローニング)など、バイオテクノロジーの基礎が頻出です。
- DNA複製:DNAの半保存的複製(メセルソンとスタールの実験)の原理と計算が2020年と2024年に出題されています。
- 遺伝の法則:キイロショウジョウバエを用いた伴性遺伝の考察や、三毛猫の遺伝子型の考察、ハーディー・ワインベルグの法則に基づいた遺伝子頻度の計算(2023年度)が出題されています。
細胞と代謝・生化学
- 呼吸と酵素反応:解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の詳細な知識。特にアロステリック酵素による代謝調節(フィードバック制御)が2019年度と2022年度に問われています。
- 計算問題(呼吸商・物質収支):炭水化物、脂質、タンパク質の呼吸商の違い。これらを基にした消費酸素量、放出二酸化炭素量、呼吸基質の消費量を求める複雑な計算が2020年度、2024年度、2025年度に継続して出題されています。
- 酵母の代謝:パスツール効果(酸素によるアルコール発酵抑制)に関する問題が2020年度と2024年度に出題されています。
- 細胞膜:アクアポリン(水チャネル)の機能や、バソプレシンによる作用機序(2019年度)が実験設定とともに問われています。
動物生理・感覚器
- 神経:興奮の伝導(活動電位の発生機序)、活動電位の大きさは刺激強度によらず一定であること(全か無かの法則)が問われています。
- 反射とシナプス:膝蓋腱反射における興奮性シナプス後電位(EPSP)と抑制性シナプス後電位(IPSP)のメカニズム(イオンチャネルの開閉)に関する問題は難易度が高めでした。
- 自律神経:心臓の自律神経支配(レヴィーの実験の類題)が2022年度に出題され、アセチルコリンやノルアドレナリンの作用がグラフを読み解く形式で問われました。
- 筋収縮:カルシウムイオン(Ca2+)やATPの役割、グリセリン筋を用いた実験考察(2021年度、2023年度)が出題されています。
- 感覚器:視覚(錐体細胞と桿体細胞の分布、暗順応、膜電位の変化、2色覚)が2022年度に、聴覚・平衡感覚(蝸牛管内の構造、高音/低音の周波数認識、半規管の機能)が2023年度に出題されています。
- 血糖調節:インスリンの作用機序、B細胞におけるATP依存性K+チャネルとCa2+チャネルの連動、糖尿病患者との比較などが2025年度の最新テーマとして出題されました。
生態・進化・分類
- 生態系:エネルギー効率の計算(2020年度)、種間競争(ゾウリムシ、2021年度)、河川の自浄作用(BODと微生物、2021年度)が出題されています。
- 進化・系統:化学進化(ミラーの実験、2019年度)、三ドメイン説(2025年度)、分子時計を用いた分岐年代の推定や最節約法による分子系統樹の考察(2025年度)が出題されています。
血液・免疫
- 血液:遠心分離後の成分分離(白血球/赤血球/血漿)、ABO式血液型判定と凝集反応の計算(2018年度、2023年度)が出題されています。
- 免疫:自然免疫と獲得免疫、抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ)の役割、自己免疫疾患、および沈降線反応(抗原と抗体の結合)を用いた複雑な実験考察(2024年度)が出題されています。
特徴的な傾向
高度な実験考察の比重増大
教科書的な実験を超えた初見の実験設定が多く、そのデータ(グラフ、表、実験結果の記述)を丹念に読み解く能力が必須です。例えば、温度受容チャネルのノックアウトマウスを用いた実験や、制限酵素断片長の解析による遺伝子地図の作成など、詳細な分析が求められます。
計算力の要求
遺伝子頻度、呼吸商、エネルギー効率、時間差の計算(聴覚、神経伝導速度)など、生物学的な背景知識に基づいた正確でミスが許されない計算が、例年、合否に直結しています。
医学関連テーマの深い掘り下げ
自律神経、感覚器、免疫、内分泌(血糖調節)といった、医学部の学習内容に直結する生理学的なテーマが、分子レベルのメカニズムや実験的な知見と結びつけて出題されます。
対策
実験考察トレーニングの徹底
過去問を通じて、リード文とグラフ・表から結論を導き出す訓練を積んでください。特に、初見の実験データに遭遇した際に、生物学の基本法則(例:アロステリック酵素のフィードバック制御、イオンチャネルの電位依存性)を適用できる柔軟な思考力を養うことが重要です。
重要分野のメカニズム理解深化
分子生物学(PCR、組換え、複製)、複雑な代謝経路(特に呼吸と発酵、酵素調節)、およびヒトの生理機能(神経伝達物質、感覚器の受容機構、ホルモン作用の連鎖)について、「なぜそうなるのか」という作用機序まで深く理解する必要があります。
計算問題の得点源化
呼吸商、遺伝子頻度、物質収支などの典型的な計算問題は、時間をかけてでも確実に正解できるように練習し、ミスを防ぐための検算習慣を身につけてください。
時間配分の意識
長文のリード文や複雑な考察問題が多いことから、知識だけで解答できる問題は短時間で処理し、考察や計算に十分な時間を確保する戦略が必要です。
考察力の比重が高まる東邦大学医学部の生物試験は、まるで暗号解読のように、複雑なリード文やグラフという「データ」の中に隠された生物学の「法則」を、論理的な思考力によって見つけ出す能力を試していると言えます。