聖マリアンナ医科大学 一般選抜 出題傾向 小論
傾向と対策の概要
聖マリアンナ医科大学の小論文試験は、大きく分けて二つの期間に傾向が分かれます。
| 対象年度 | 出題内容・テーマ | 論述形式 |
|---|---|---|
| 2019~2021年度 | 現代社会の課題、哲学・倫理、心理学に関する高度な文章読解 | 要約+自身の意見(300字~400字程度) |
| 2024年度以降 | 客観的なデータ(OECD統計など)や具体的な社会・医療政策課題 | 現状分析・考察・政策提言(800字~1,000字) |
対策のポイント:
従来の深い倫理的思考力に加え、近年の傾向に合わせてデータ分析力と構造化された長文の政策提言能力を養うことが必須です。
試験形式の安定性と構成
2019年度から2021年度にかけては、試験形式の基本的な構成に安定性が見られました。
- 出題数:前期試験では、テーマが異なる2つの文章が出題されることが一般的でした。後期試験では1つの文章に対し、要約と意見論述が課されました。
- 設問の構造:各文章に対して、短答形式の設問(20字~100字程度)で文章内容の理解度や筆者の意図を問う問題が設けられ、最後に受験生自身の考察を問う論述問題が続く構造でした。
- 論述の文字数:意見論述は300字~400字以内で求められることが多かったです。ただし、2020年度入試では、岡潔と小林秀雄の対話に関する問題において、1,200字以内や600字以内という非常に長い論述が求められた事例もあり、文字数は変動的でした。
試験形式の大きな変化
試験形式の最大の変化は、2024年度入試に顕著に現れました。
- 資料分析型の導入:従来のテキスト読解・要約中心から、グラフや表などの客観的なデータや資料(例:OECD加盟諸国の労働生産性、医療提供体制の国際比較データ)を読み解き、論述の根拠とする形式が導入されました。
- 論述文字数の大幅増加:メインとなる論述の文字数が、従来の300字~400字程度から、800字~1,000字へと大幅に増加しました。これは、データに基づいた多角的かつ論理的な提言能力を評価する意図を示唆しています。
- テーマの政策志向化:2024年度には「新型コロナウイルス感染症蔓延前後の労働生産性」や「我が国の医療制度の今後」といった具体的な政策課題が提示され、2025年度も「最良の医療」の実現方法や「高齢者ドライバーによる交通事故」の解決策といった、社会に対する提言を求める形式が続いています。
出題分野や出題テーマの傾向
出題テーマは、人間存在の根源、倫理的課題、そして科学技術の進展に伴う社会の変容という三つの柱に分けられます。
科学技術と最適化
「蟻コロニー最適化(ACO)」や「巡回セールスマン問題(TSP)」といったアルゴリズムを導入し、最終的に人工知能(AI)と医療従事者・患者との関わりを論じさせました(2019年度前期)。
哲学・人間性・知識
「生きがい」の形成における感情と理性の役割、「実験的精神」や「直感と確信」の重要性、「知識人」のあり方に関する対話(小林秀雄・三木清、小林秀雄・岡潔の対話)が出題されました(2020年度)。
生命倫理・社会心理
- 依存症(アディクション):アディクトがつく「二重のうそ」の背景にある、人とのつながりを求める絶望的なメッセージや「低い自己評価」、「孤立感」といった根源が取り上げられました(2021年度前期)。
- 死生観と安楽死/尊厳死:医療の進歩により「いつまで死ねないのだろう」という不幸が生じうる現代の死生観、安楽死の是非、そして医師の覚悟と役割について問われました(2021年度前期)。
- 公衆衛生と道徳的義務:カントの哲学を通じて、種痘接種が自己保存の義務に違反するかという倫理的議論を展開し、最終的に多数の福祉(功利主義)と国家の道徳的責任を論じさせました(2021年度後期)。
データと政策課題
2024年度以降は、日本の労働生産性の国際比較、急性期病床の平均在院日数や医師数などに基づく日本の医療提供体制の課題、「最良の医療」の実現、「高齢者ドライバー問題」の解決策など、具体的な政策提言を求めるテーマに移行しています。
特徴的な傾向
- 医学・医療への必然的な接続:どのような抽象的なテーマ(AI、生きがい、直感、嘘など)が与えられても、最終的な論述問題は必ず医療従事者、患者、または医療政策といった具体的な医学的文脈と結びつけて考察させる構造となっています。
- 客観的根拠の重視 (2024年以降):従来の論理的・倫理的な論述に加え、2024年度以降は、データに基づき論を構成する客観性が非常に重視されるようになりました。これにより、受験生には、与えられた資料を深く分析し、そこから結論を導き出す能力が求められています。
- 倫理的・道徳的ジレンマの探求:医療現場で直面する可能性のある、安楽死や尊厳死、あるいは予防接種における個人の自由と公衆の福祉の対立といった、答えが一つではない倫理的なジレンマについて深く考察させる点が特徴的です。
対策
近年の大きな形式変更(2024年度以降)を考慮すると、対策は以下の点に重点を置く必要があります。
データ分析と政策提言能力の強化
- 資料の読み取り:OECD統計など、医療や社会経済に関する公的なデータやグラフに慣れ、国際比較データから日本の現状(例:平均在院日数の長さ、生産性の低迷)を正確に読み取る訓練を行います。
- 長文構成の訓練:800字~1,000字の論述では、単なる感想や意見ではなく、「現状分析(データからの知見)→課題の特定→原因の考察→具体的な政策提言」という論理的な流れを迅速に構成する練習が必要です。
医療倫理・社会科学的知識の習得
- 幅広いテーマへの対応:AI、依存症、死生観、公衆衛生の倫理といった、過去の出題テーマに関する基本的な概念と、それらが医療現場に与える影響について事前に理解を深めておきます。
- 政策課題への関心:高齢化社会、医療財源、地域医療の偏在、感染症対策など、日本の具体的な医療政策の課題について日頃から関心を持ち、提言の根拠となる知識を蓄積します。
要約・短文記述の精度向上
形式変更後も、設問によっては文章の要約や筆者の意図を問う短答(100字以内など)が残る可能性があるため、長文の複雑な内容を正確かつ簡潔にまとめる技術を維持することが重要です。
対策の比喩:求められる受験生像の変化
聖マリアンナ医科大学の小論文試験は、かつては難解な哲学書を読み解く「書斎の論理家」を求めていましたが、現在は、「現場のコンサルタント」として、与えられた患者のバイタルデータ(OECDデータ)を分析し、改善のための具体的な治療計画(800字~1,000字の政策提言)を、論理的かつ説得力をもって提示できる能力を求めていると言えます。