北里大学 一般選抜 出題傾向 化学
傾向と対策の概要
北里大学医学部の化学入試は、極めて安定的かつ、計算能力と応用力を試す理論的な問題が多く出題されるという特徴があります。試験時間は2科目で100分とされており、化学にかけられる時間は限られています。
出題形式は一貫してマークシート方式の選択式であり、正確な知識だけでなく、複雑な化学平衡や溶液の性質に関する高度な計算力が要求されます。特に、理論化学分野においては、理想気体からのずれ(圧縮率因子)や、弱酸の低濃度条件下での電離平衡の導出など、大学レベルの概念にも触れる詳細な設問が見られます。
試験形式の安定性と構成
試験形式は2018年度から2025年度まで、極めて安定しています。
- 試験時間と形式: 2科目100分(化学およびもう一科目)で行われ、全問が選択肢から適切な答えを一つ選ぶマークシート方式です。
- 大問の構成: 大問は通常 I, II, III, IV, V の5つで構成されます。
- 大問 I の特徴: 大問 I は一貫して小問集合(小問8問)であり、理論、無機、有機の幅広い分野から知識や基礎的な計算を問う問題が出題される傾向があります。
- その他大問の特徴: 大問 II〜V は、特定のテーマ(例:工業的製法、化学平衡、有機合成)に関する長文読解形式の設問であり、それぞれ3〜4問程度の設問が含まれます。
試験形式の大きな変化
2018年度から最新年度にかけて、試験の全体的な形式や大問構成、出題方針に大きな変化は認められません。安定した形式を維持しているため、過去問演習が効果的であると考えられます。
出題分野や出題テーマの傾向
出題は理論化学、無機化学、有機化学の3分野全てからバランスよく、かつ深く問われます。
理論化学の傾向
- 溶液と凝固点降下/蒸気圧: 混合溶液の密度変化に伴う体積計算や、凝固点降下、蒸気圧(分圧)を考慮した計算が頻出です。
- 化学平衡と反応速度: Haber-Bosch法(アンモニア合成)の平衡移動や圧平衡定数 Kp の計算が繰り返し出題されています。また、アレニウスの式を用いた活性化エネルギーの比較など、応用的な速度論も出題されます。
- 酸塩基平衡と滴定:
- 水のイオン積 Kw の温度依存性やpH計算。
- 弱酸の電離平衡における近似条件の検証や、低濃度での電離度の計算・導出(弱酸の濃度 c や Ka を用いた電離度の式)。
- 難溶性塩の溶解度積 Ksp を利用した沈殿滴定(モール法)も出題されています。
- 多段階電離する酸(硫化水素、炭酸)の平衡。
- 気体と実在気体: 実在気体が理想気体からどれだけ乖離しているかを示す圧縮率因子Zや、ファンデルワールスの状態方程式に関する出題が特徴的です。これは、実在気体の性質を深く理解しているかを測る難度の高いテーマです。
無機化学の傾向
- 工業的製法と反応: 硫酸(接触法)や硝酸(オストワルト法)の工業的製法における水の増減量の計算、および、炭酸ナトリウムの製法(アンモニアソーダ法、塩安ソーダ法)の反応物・生成物の比較が出題されています。
- 電気化学: 塩化ナトリウム水溶液の電気分解(イオン交換膜法)や、電池(鉛蓄電池、ダニエル電池など)の反応量計算が見られます。
- 金属とその性質: 鉄の製錬過程(酸化還元反応の量的関係)や、銅の電解精錬における不純物の挙動など、実用的なテーマが出題されます。
有機化学の傾向
- 芳香族化合物の分離と構造決定: アニリン、安息香酸、フェノール、ニトロベンゼンなどの混合物から、酸性・塩基性・中性成分の性質を利用した分離操作(液液抽出)の順序決定が頻出しています。
- 構造異性体と立体異性体: 分子式から考えられる構造異性体の総数や、不斉炭素原子の有無、幾何異性体(シス-トランス異性体)の数に関する計算問題が多く、特にアルケンや芳香族化合物において詳細に問われます。
- 高分子と生体高分子:
- 合成高分子(ポリスチレンのスルホン化と陽イオン交換樹脂)に関する計算や定量、浸透圧による平均分子量決定が出題されました。
- ペプチド(ジペプチドの構造決定とケルダール法による窒素定量)や、糖類(グリコーゲンの構造、還元性、ヨウ素反応)など、生化学分野の知識も必須です。
特徴的な傾向
- 高度な理論的裏付けの要求: 単に公式を適用するだけでなく、公式が成り立つための近似条件(例:弱酸の電離度 α = √(Ka/c) の成立条件)や、実在気体の理論(例:ファンデルワールス式、圧縮率因子Zの導出)など、基本法則の深い理解と数式的裏付けが問われます。
- 定性分析と定量分析の融合: 有機・無機化学の実験操作や定性的な知識(例:沈殿の色、呈色反応)だけでなく、それらに関する緻密な量的計算が求められます(例:電気分解の反応量、抽出百分率、ケルダール法)。
- 異性体の網羅的な把握: 幾何異性体(シス-トランス異性体)や立体異性体を含めた網羅的な異性体の数を問う問題が多いため、構造の体系的な整理が必要です。
対策
北里大学医学部の化学で高得点を取るためには、単なる知識の暗記に留まらない、高度な思考力と計算の正確さが求められます。
合格への重要対策ポイント
- 理論化学の計算強化: 化学平衡/電離平衡における Kc, Kp の関係、および複雑な平衡定数計算(低濃度、多段階電離)に慣れることが必須です。解答の選択肢が近接していることが多いため、近似計算ではなく、可能な限り正確な計算をこなす練習が必要です。また、理想気体と実在気体の違いを理論的に説明できるようにし、圧縮率因子Zの定義や関連する計算をマスターしてください。
- 有機化学の体系的理解と定量: 芳香族化合物の分離実験(酸・塩基・中性)はパターン化されているため、試薬と移動先の物質(塩)の関係を完全に理解してください。ペプチドや糖類に関する出題は、構造決定から定量分析まで踏み込むため、範囲を絞らずに深く学習する必要があります。
- インプットの正確性: 無機化学の工業的製法(例:アンモニアソーダ法における再利用される物質)や、特殊な金属反応(例:テルミット反応、不動態形成)といった、細部にわたる知識を正確に定着させることが重要です。
学習のイメージ(例え話)
北里大学医学部の化学試験は、高性能な精密機械を組み立てる作業に似ています。理論化学の複雑な計算は、設計図(公式や法則)に従って部品(数値)を正確に組み合わせる能力を試します。無機・有機化学の知識は、どの部品(化合物や反応)が特定の状況(実験条件や工業プロセス)で機能するかを知るためのカタログです。
どの知識も計算も、少しのズレが最終的な成果(解答)を大きく狂わせるため、高速かつ緻密な作業(高い計算精度と時間管理)が求められます。