川崎医科大学 一般選抜 出題傾向 物理
傾向と対策の概要
川崎医科大学の物理の入試は、出題分野が極めて広範であり、力学、電磁気学、波動、熱力学、原子物理の全領域からバランスよく出題されます。問題の難易度は基礎的な知識から、複数の法則を組み合わせて複雑な導出を要する応用レベルまで多岐にわたります。
特に、物理現象の定義や公式の導出過程を深く理解しているかを問う設問が多く、単なる公式の暗記だけでは高得点は望めません。
試験形式の安定性と構成
形式の安定性
2018年度から最新の2025年度まで、試験形式は極めて安定しています。
- 試験時間と科目数: 物理は他の1科目と合わせて120分で行われています。
- 解答形式: 全て選択肢から最も適切なものを一つ選ぶマークシート方式(空欄補充形式)です。
【重要】数値の入れ方について 数値解答において、解答枠の桁数より少ない桁数の場合、数字を右詰めで、その前を「◎」で埋めるという特殊な指示が毎年一貫して設けられています。この指示は合否に関わる重要な注意事項です。
構成
年度により大問数は異なりますが(例:2018年度はIからVIまで、2024年度はIからIVまでなど)、力学、電磁気学、波動、熱力学、原子物理の主要5分野から広く出題される構成が継続しています。
試験形式の大きな変化
2018年度以降の提供資料に基づくと、試験時間、解答形式、解答上の注意(特に数値の入れ方)に関して、大きな変更は確認されていません。安定した形式で、受験生の広範な知識と深い理解を測り続けています。
出題分野や出題テーマの傾向
1. 力学 (Mechanics)
- 剛体と静力学: 棒のつり合い(モーメントの計算)や、支柱から棒が離れる条件など、力のつり合いとモーメントの応用が問われます。
- 相対運動と衝突: 観測者の速度(重心速度など)を考慮した相対速度の計算や、弾性衝突後の速度の導出が含まれます。
- 運動量保存則(質量変化系): 雨が降る台車やロケットの噴射など、質量が時間とともに変化する系における運動量保存則の適用と導出が求められます。
- 振動: ばね振り子の単振動の周期計算や、ばねで連結された2物体系の重心運動と相対運動(単振動)の分析(速度・位置のグラフ化)が出題されています。
- 万有引力と軌道: ケプラーの法則(面積速度一定、周期と長軸の関係)の原理の理解と、力学的エネルギー保存則を用いた面積速度の導出が出題されています。
- 慣性力: 加速する箱の中の液面や圧力の解析に慣性力を応用する問題が出題されています。
2. 電磁気学 (Electromagnetism)
- 複雑な回路と計測: 電流計・電圧計の内部抵抗を考慮した抵抗値の測定誤差の分析と、誤差を小さくするための条件(を小さく、を大きくする)が問われています。
- 交流回路と共振: RLC直列回路の電圧と電流の位相差、共振周波数 の導出、共振時(電流最大)の周波数特性グラフの選択などが出題されています。
- LC電気振動: 充電済みコンデンサーとコイルによる電気振動の解析(電圧の時間変化、コイルのエネルギーの時間変化)が出題されています。
- 磁場とローレンツ力: 複数の直線電流が作る合成磁場や、磁場中の導体棒が受ける力の計算。また、荷電粒子が磁場中で行う円運動の周期や、ローレンツ力による方向変化(フレミングの法則)が出題されています。
- 静電気力と散乱: 同種の電荷を持つ粒子同士の衝突(反発)における運動量保存則とエネルギー保存則を用いた最接近距離の導出(ラザフォード散乱の基礎)が扱われています。
3. 波動 (Waves)
- 光の干渉・回折: 複スリットによる干渉条件、回折格子による明線条件 の利用、白色光の入射による虹色の模様(波長分散)の発生が問われています。
- 薄膜干渉(斜め入射): 薄膜に斜めに入射する光の光路差 の導出や、反射による位相のずれ(屈折率の大小関係 に基づく)を考慮した弱め合いの条件が出題されています。
- ドップラー効果: 音速測定におけるドップラー効果の応用と、測定限界 が音速 や音源の速度 に与える制約の分析が出題されています。また、音源が動く場合と観測者が動く場合で、波長と振動数の変化が異なることの理解が求められています。
4. 熱力学 (Thermodynamics)
- 分子運動論と温度: 理想気体の絶対温度 が分子の平均運動エネルギー に比例すること(比例定数 )や、気体の圧力導出の基礎が問われています。
- 比熱と熱容量: ヒーター加熱による熱量と比熱・熱容量の関係を用いた測定実験の解析が出題されています。
- 熱力学第一法則の応用: ピストンをばねと外部圧力で拘束した断熱容器内の気体を加熱する際の、仕事 、温度 、内部エネルギーの変化 、および加えられた熱量 を計算させる問題が出題されています。
5. 原子物理 (Modern Physics)
- 放射性崩壊と半減期: 崩壊と 崩壊による原子核の変化(原子番号、質量数)の追跡や、半減期を用いた原子数の時間変化の計算が頻出しています。
- コンプトン効果: コンプトン効果のエネルギー・運動量保存則の式、および波長変化の公式 の導出過程が問われ、現象の発見者がコンプトンであることまで問われています。
- 特殊相対性理論と質量欠損: 質量とエネルギーの等価性 、質量欠損の定義、対消滅による 線のエネルギーや波長の計算など、現代物理学の基礎概念が扱われています。
- 素粒子: 陽子と中性子のクォーク構成(uクォーク2個、dクォーク1個で陽子; uクォーク1個、dクォーク2個で中性子)など、素粒子物理学の入門的な内容も出題されています。
特徴的な傾向
- 計算過程の徹底的な確認: 物理量を導出する過程自体が空欄補充の対象となっている問題が多いです。衝突後の温度を比熱 や初速度 を使って導出する問題や、コンプトン効果の波長シフトの式を近似まで含めて導出する問題など、論理的な思考力と正確な代数計算能力が強く要求されます。
- 融合問題の複雑さ: 異なる分野の知識を組み合わせた応用問題が目立ちます。例えば、力学と熱力学の融合や、力学と静力学の融合などです。
- 基礎定義の正確さの重視: 絶対温度と平均運動エネルギーの関係、質量欠損の定義、比電荷の定義など、物理量の定義や基本法則を曖昧にせず、正確に理解しているかを問う問題が多いです。
- 電場中の単振動: 2024年度の電場中の振り子の問題のように、重力と静電気力の合力を見かけの重力として捉え、単振動の周期を求める、典型的な応用パターンも出題されています。
対策
- 全分野の基礎固めと公式の導出練習: 主要な公式(運動量保存則、力学的エネルギー保存則、ドップラー効果、コンプトン効果、LC回路の周期など)は、単に暗記するだけでなく、その導出過程を自力で再現できるように訓練することが必須です。
- 複雑な記号計算の精度向上: 解答が具体的な数値ではなく、物理量(記号)の関係式となる設問が多いため、分数の計算や平方根を含む複雑な記号計算をミスなく行う練習を徹底してください。
- 特殊な現象の原理理解: ケプラーの法則、コンプトン効果、ドップラー効果の測定限界、LC振動、質量変化系(ロケット)など、教科書で深く扱われがちな応用テーマについては、その現象の背後にある原理や保存則の適用方法を重点的に復習します。
- 過去問を用いた形式への慣れ: 特徴的な数値の入れ方(右詰めで「◎」をマークするルール)は慣れが必要であり、本番で時間を浪費したり、誤答扱いになったりしないよう、過去問を通じて訓練しておくべきです。
総括: 川崎医科大学の物理の試験は、「物理学の全ての道具箱」の中身を熟知し、与えられた複雑な設計図(問題設定)に従って、正確な手順で目的の部品(解答)を作り上げる技術を試しています。一つでも道具(分野知識)が欠けていたり、手順(導出計算)を間違えたりすると、完成に至ることができません。幅広い知識と精密な計算能力の両立が求められます。