岩手医科大学 一般選抜 出題傾向 化学
岩手医科大学医学部の化学入試は、理論、無機、有機の三大分野から満遍なく出題され、広範な知識と高度な計算能力を要求する形式が一貫しています。特に、複数の記述の正誤を判断し、その正しい組合せを選択させる形式が多用されており、基礎知識の正確な理解と応用力が合否を分けます。
傾向と対策の概要
計算問題は、溶液の性質(浸透圧、凝固点降下)、熱化学、化学平衡(特に弱酸・弱塩基のpH計算)、および電気分解など、複雑で多段階な処理を要するものが目立ちます。
試験形式の安定性と構成
試験時間の変遷
最大の形式的変化は、2019年度入試で発生しました。
- 2018年度: 化学を含む2科目で90分。
- 2019年度以降: 化学を含む2科目で120分に増加し、この形式が安定しています。
大問構成の安定性
大問数は2019年度以降、3問構成で安定しています。分野構成は以下の通りです。
| 大問 | 主な出題分野 |
|---|---|
| 第1問 | 理論化学(物質の構造、計算問題、平衡、溶液) |
| 第2問 | 無機化学(周期表、族元素の性質、金属イオンの分析、気体の製法) |
| 第3問 | 有機化学・生体高分子(構造決定、異性体、糖、タンパク質、合成高分子) |
試験形式の大きな変化
2019年度より2科目の合計時間が90分から120分へ延長されたことで、問題量が相対的に増加し、一問あたりの計算負荷が高まる傾向が強まりました。大問が3問に集約されたことで、各分野をより深く掘り下げて問う形式に移行しています。
出題分野や出題テーマの傾向
理論化学
- 物質の基礎概念: 三重点、臨界点、超臨界流体の定義や、2019年改訂後のSI基本単位(モル)の定義など、基礎的な定義の理解が問われます。
- 溶液の性質: 浸透圧 $\Pi=CRT$ に基づく比較や、凝固点降下の計算が出題されています。
- 熱化学と結合エネルギー: ヘスの法則や結合エネルギーを用いた計算が頻出です。
- 化学平衡: 弱酸・弱塩基のpH計算が重要です。2021年度には水の電離も考慮する極めて希薄な溶液の計算も登場しました。
- 電気分解: ファラデーの法則に基づく計算のほか、科学史的な知識も問われています。
無機化学
- 周期表と元素の性質: 各族元素(1族、2族、遷移元素、14~17族など)の詳細な正誤判断が毎年必ず出題されます。
- 金属イオンの分離・沈殿: $ \text{Ag}^{+} $, $ \text{Pb}^{2+} $, $ \text{Cu}^{2+} $, $ \text{Zn}^{2+} $, $\text{Al}^{3+}$ 等の分離操作が頻出です。
- 応用的な知識: 触媒($ \text{V}_2\text{O}_5 $, $ \text{Pd} $)、LED材料($ \text{Ga} $)、電池(リチウム電池等)など、医療や社会に関連する知識も問われます。
有機化学
- 構造決定と異性体: 鎖式・芳香族化合物の構造異性体、幾何異性体、鏡像異性体の数を問う問題が極めて詳細に出題されます。
- 官能基と反応: フェノール類やアニリン等の芳香族化合物の性質、呈色反応、分離操作が頻出です。
- 生体高分子: 糖類の還元性や加水分解、アミノ酸のペプチド異性体数計算、タンパク質の一次構造決定などが問われます。
- 医薬品と工業: アスピリンの構造やプラスチックのリサイクル方法など、実用的なテーマも含まれます。
特徴的な傾向
- 正誤判定の組み合わせ選択が主体: 複数の記述(ア~ウ等)の正誤の組合せを選ばせる形式が多く、曖昧な知識では太刀打ちできません。
- 計算問題の複雑さと精密さ: 気液平衡を考慮した全圧計算や、多段階滴定、水の電離を無視できないpH計算など、高い数学的処理能力が求められます。
- 歴史的・学術的背景の出題: 化学史上の発見者(プルースト、ファラデー、サンガー等)や、物質の最新の定義に関する問題が散見されます。
対策
1. 知識の網羅性と正確性の徹底
正誤判定問題に対応するため、教科書レベルの定義や物質の性質を完璧に習得しましょう。特に無機化学の族ごとの性質は横断的に整理しておく必要があります。
2. 複雑な計算問題の反復練習
計算過程が長くなることを前提に、速さと正確性を両立させる訓練が不可欠です。電気分解や化学平衡の近似計算の適用範囲を正確に判断できるようにしましょう。
3. 異性体の網羅的把握
有機化学では、構造・幾何・光学異性体の種類を漏れなく書き出す練習を徹底してください。
4. 過去問を用いた時間管理の訓練
2科目120分の枠内で、大問3つを解ききるための配分を過去問演習で確立しましょう。
総評: 本入試は、化学の知識が論理的に体系化されているかを問う内容です。広大な知識から必要な情報を瞬時に検索し、難解な計算パズルを解き明かす能力が求められています。