以下の記事は2013年時の記事です。
Vol.15 「インフルエンザウイルス」
インフルエンザウイルスはウイルス粒子内の核蛋白複合体の抗原性の違いから、A・B・Cの3型に分けられ、このうち流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、HAには16の亜型が、NAには9つの亜型がある。これらは様々な組み合わせをして、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布しているので、A型インフルエンザウイルスは人と動物の共通感染症としてとらえられる。そして最近では、渡り鳥がインフルエンザウイルスの運び屋として注目を浴びている。
ウイルスの表面にあるHAとNAは、同一の亜型内で 抗原性を毎年のように変化させるため、A型インフルエンザは巧みにヒトの免疫機構から逃れ、流行し続ける。これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異という。いわばマイナーモデルチェンジである。連続抗原変異によりウイルスの抗原性の変化が大きくなれば、A型インフルエンザ感染を以前に受け、免疫がある人でも、再び別のA型インフルエンザの感染を受けることになる。その抗原性に差があるほど、感染を受けやすく、また発症したときの症状も強くなる。そしてウイルスは生き延びる。
さらにA型は数年から数10年単位で、突然別の亜型に取って代わることがある。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異という。これは言わばインフルエンザウイルスのフルモデルチェンジで、つまり新型インフルエンザウイルスの登場である。人々は新に出現したインフルエンザウイルスに対する抗体はないため、感染は拡大し至急規模での大流行(パンデミック)となり、インフルエンザウイルスは息をふきかえしてさらに生き延びる。
これまでのところでは、1918年に始まったスペイン型インフルエンザ(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型インフルエンザ(H2N2)が発生し、その流行は11年続いた。その後1968年に香港型インフルエンザ(H3N2) が現われ、ついで1977年ソ連型インフルエンザ (H1N1)が加わり、小変異を続けながら現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフル エンザウイルスが世界中で共通したヒトの間での流行株となっている。
H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザは、1997年の香港で家禽における発生において、初めてヒトに感染した(死亡6例を含む18例のヒトにおける患者)。このときは香港中の家禽約15万羽の淘汰により一旦収束したが、この後、2003年末から東南アジアでの家禽における発生とヒトへの感染事例が相次ぎ、感染地域の地理的な広がりとともに、ヒトにおける感染報告例も増加している。
すなわち、現在、A/H5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスは南北アメリカを除くすべての世界の地域ですでに定着しており、持続的に野鳥、家禽の間で流行を起こし、それらが時折ヒトに感染しているという状況となっている。
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