有機化学のオキテ18

掟18. 分子式C4H4O4の幾何異性体が存在する不飽和二価カルボン酸はシス形のマレイン酸とトランス形のフマル酸であり,マレイン酸はシス形なので加熱すると容易に脱水して無水マレイン酸に変化することを常識とすべし。

問題

不飽和二価カルボン酸について,次の問い(問1~4)に答えよ。構造式は例にならって,価標を省略せずに書け。

分子式C4H4O4の不飽和二価カルボン酸には,((ア))形のマレイン酸と((イ))形のフマル酸という一組の((ウ))異性体が存在する。両不飽和二価カルボン酸はともに無色の結晶であるが,物理的,化学的性質がかなり違っている。 問題図

  • 問1. 文中の((ア))~((ウ))に適当な語句を記入せよ
  • 問2. マレイン酸(a)とフマル酸(b)の構造式を書け。
  • 問3. マレイン酸を約160℃で加熱すると,どのような化合物が生ずるか。その化合物の構造式を書け。
  • 問4. 触媒存在下に水素を付加すると,マレイン酸とフマル酸は同一の化合物に変化する。その化合物の名称を書け。
<藤田保健衛生大学医学部>

解答と解説

<解答>

  • 問1. (ア)シス (イ)トランス (ウ)幾何
  • 問2. 下図解答図2
  • 問3. 下図解答図3
  • 問4. コハク酸

<解説>

  • 問1. C4H4O4の幾何異性体が存在する不飽和二価カルボン酸にはシス形のマレイン酸とトランス形のフマル酸がある
  • 問2, 3. シス形のマレイン酸では2つのカルボキシ基が互いに近接した位置にあるため,加熱すると容易に酸無水物である無水マレイン酸に変化する。
  • 問4. 触媒存在下に水素を付加すると,マレイン酸もフマル酸もコハク酸に変化する。解説図4

<補足>

  • 1. 分子式でC4H4O4考えられる不飽和二価カルボン酸はマレイン酸とフマル酸以外にやや不安定なメチレンマロン酸がある。 補足図1
  • 2. マレイン酸の融点は約130℃で,フマル酸の融点約287℃よりかなり低い。これはフマル酸ではカルボキシ基により分子間水素結合のみを生じるのに対して,マレイン酸ではカルボキシ基が互いに近接しているので分子内水素結合も生じ,フマル酸に比べると分子間水素結合の数が少なくなり分子間の結合力が弱まるためである。(フマル酸分子のほうが対称性が大きく結晶格子に組みこまれやすいことも関係する。)補足図2
  • 3. フマル酸とマレイン酸の電離定数を比べると第1電離定数K1はマレイン酸の方がかなり大きい。これはフマル酸では分子間水素結合のため水素は電離しにくいのに対して,マレイン酸では第1電離によって生じた-COOがもう一つの-COOHのHとの間に水素結合を形成して安定化し,第1電離の平衡が電離側に片寄るためである。逆にこの分子内水素結合による安定化のため,マレイン酸では第2電離が起こりにくい。そのため電離定数K2はフマル酸の方がかなり大きくなっている。
    マレイン酸フマル酸
    1=1.2×10-21=9.1×10-4
    2=2.0×10-72=2.2×10-5

掟18. 分子式C4H4O4の幾何異性体が存在する不飽和二価カルボン酸はシス形のマレイン酸とトランス形のフマル酸であり,マレイン酸はシス形なので加熱すると容易に脱水して無水マレイン酸に変化することを常識とすべし。