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以下の記事は2015年時の記事です。
Vol.07 「遺伝子診断」
医療目的以外の遺伝子診断はできうる限り行わないに越したことはない。ましてや【デザイナーベイビー】作製の為の診断等はもっての外である。これは親の考える優秀な遺伝子だけを繋ぎ合わせてヒト固体に成る受精卵を作ろうというもので、単なる親の身勝手さだけで診断する非を銘記せねばなるまい。以下のような日本が示す厳しい条件下での診断を望む。その条件とは、
- Ⅰ.両親に重篤な遺伝子病の因子がある場合。
- Ⅱ.夫婦どちらかの遺伝子異常の原因によって、何回も流産を繰り返している場合。
である。日本におけるこの厳しい規制は、世界の国々の流れと大きくかけ離れていた。しかし、2014年11月20日遂に日本産科婦人科学会で「受精卵検査の範囲拡大」への一歩を踏み出した。まだ倫理委員会が臨床研究として実施する計画案を了承したに過ぎないが、この決定は大きな前進である。ここで【遺伝子診断】の意味を再度確認しておこう。
遺伝子診断のほとんどが【着床前診断】を指す。着床前診断とは、受精卵の段階でその遺伝子や染色体を解析し、受精卵が子宮に着床する前に、染色体や遺伝子に異常が在るか無いかを調べる技術である。着床前診断には、
- イ、特定の遺伝子異常の有無を診断する「着床前遺伝子診断」と、
- ロ、流産を減らし着床率を上げる目的で染色体の数的異常を調べる「着床前遺伝子スクリーニング」とが有る。
呼び方は違うが、どちらも受精卵の染色体を調べるという作業では同じである。
この着床前診断の利点はⅠにおいては、正常な遺伝子保持の受精卵のみを母体に戻し、着床を待つことができるというもので、Ⅱにおいては、母体の命の危険や過大な肉体上・精神的負担を取り除くことができるというものである。その理由は、流産してしまう原因の大半が、広い意味での染色体異常によって起きるからである。米国やタイでの調査によると、着床前遺伝子スクリーニングによって軒並み妊娠率が上がり、流産が減少したとの報告がある。日本では着床前診断が禁じられてきたために海外での受診が頻発した。この受診は夫婦共に行うことが原則であるから、渡航滞在日数は平均3日から6日、費用は米国で500万円、タイで250万円程掛かる。この点から「受精卵検査の範囲拡大へ」のニュースは大変喜ばしいものであった。
しかしながら、問題点も存在し、今後の対応が緊急な課題として残された。第1に、着床前診断は全ての染色体を調べることができるので、重篤な遺伝子病の診断ばかりではなくごく普通の遺伝子までも排除される【命の選別】に繋がる可能性も考えられる。これは恐ろしいことで、【優生思想】を煽ることにもなりかねず、断じて許されることではない。第2に、取り出した受精卵を培養する段階で培養が進まずに受精卵そのものが作れない可能性もある。第3に母体に戻して胚移植をした受精卵が着床・妊娠しないこともあり得るのである。このような技術面でのリスクなども今後の課題として残されている。とにかく、倫理面、技術面、法的整備ともに今後の進展を待つことになる。
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