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以下の記事は2016年時の記事です。
Vol.09 「安楽死」
日本では安楽死は法的に認められていない。正確にいうと、【積極的安楽死=まだ条件が整っていない患者に筋弛緩剤などの薬物投与などをして強引に死に至らしめる行為】は禁止されているのである。しかし、終末期患者の延命治療を中止することによって、死に至らしめる医療行為(人工呼吸器を外すなど)は、厳密な条件下にあっては認められている。これが【消極的安楽死】と呼ばれる行為である。ここでいう厳密な条件下の内容は、あくまでもⅠ.患者の尊厳死願望が顕著であること(リビングウイルが残されてあるか)、Ⅱ.あらゆる適切な医療行為を施しても回復の見込みがないこと、Ⅲ.このまま延命治療を続けても余命は幾ばくも無い(半年以内)こと、の3条件である。更にその時点で患者の疼痛が抑制できないほどの激しさであることも延命治療中止の条件に入る。
※現在、患者の尊厳死願望が強ければ、延命治療中止も尊厳死であると定義づける関係者もいる。しかし、これは「延命治療中止を何と呼ぼうとも医師の手による殺人であることに変わりはない」という心の痛みを和らげるための弁解から生まれてきたものであろう。延命治療中止による死は消極的安楽死と呼ぶのが正しい。
*衝撃的な事件が2014年6月にフランス、11月にはアメリカで起こった。フランスの事件とは6年間昏睡状態にある男性患者の延命治療を中止せよという決定を仏・法務院(日本の最高裁のようなところ)が下したことである。安楽死には厳しい姿勢で、法的許可を下さなかったフランスが、初めて認めた大決断と考えられる。アメリカの事件とは、29歳の女性が余命半年の宣告を受けるほどの末期脳腫瘍であったが、医師の自殺幇助による安楽死が認められているオレゴン州に移住してまで、医師の幇助の下、安楽死を選んだことである。どちらも安楽死への流れを助長する可能性を秘めている。
*同じく2014年8月カナダで起こったもう一つの例を挙げよう。認知症が進行する前に自ら命を絶った84歳のカナダ人女性のことである。「植物状態で病院に何年も過ごす。オムツをして、自分では何も出来ず、周囲に物理的、経済的負担を掛ける・・・こんな馬鹿げて、無駄なことありますか?周りに負担になるばかりか、自分にとって少しも良くないのですから」と常々述べ、夫にも告げず、致死量の鎮静睡眠剤をウィスキーと共に服用し、自死したのであった。彼女は、「ただ物理的に生きているだけの状態にはなりたくなかった。知性と好奇心と勇気と優雅さを内に持った生命でなければ、生きている意義がない」と確信していた。彼女は精神科の医者で、夫は大学で哲学の教授を勤めていた。上記の29歳で安楽死を選択した女性もウェブ上で「人間として死にたい」と配信したという。また、上記のフランスの男性は妻に昏睡状態になる前から「延命措置はやらないでくれ」とのリビングウイルを残していたという。これらの事件に共通するのは、自分の死に際して「自分らしく、人間らしく死にたい」ということである。しかし、そこには【医師の自殺幇助に対する禁止】という法的な問題が横たわっていたのである。カナダ人女性が夫にも告げなかった訳は、夫や医師が自殺幇助の罪に問われないようにとの配慮であった。ここまでの経緯を考えると、【医師の免責】に対しての温かい支援がないと安楽死の問題は解決しないことが理解されよう。患者は自分の最期を迎える姿が想像できてしまうのである。その上での決断である。
日本では『尊厳死法制化を考える議員連盟』(推進者は麻生太郎氏)という組織があり、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」を立法化しようとする動きがある。その内容の論点は、二点に要約できる。
- 1.患者の意思に基づく延命措置の差し控えもしくは中止。
- 2.それを実施した医師の免責に関する規定。
そのための前提条件は、未だ安楽死の明確なガイドラインが出来ていない現状があり、少々遅きに失している感を免れない日本ではあるが、「終末期にある患者に延命措置を行わないことを認める」という対応は、消極的安楽死を法制上で全面的に認めて行こうという流れの起こりである
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