以下の記事は2013年時の記事です。
Vol.16 「高病原性 鳥インフルエンザ」
もともと鳥インフルエンザはA型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の感染症。鳥インフルエンザウイルスは、自然界においてカモ、アヒルなどの水鳥を中心とした多くの鳥類が腸内に保有している。
また、鳥インフルエンザウイルスがヒトやその他の動物に感染した場合も鳥インフルエンザという感染症名を使用おり、今年もカンボジアでは人の鳥インフルエンザ(H5N1)発症が相次ぎ死者もでている。その背景には家禽での発生があり、またインドネシアではアヒル間で発生が広がっている。2013年1月、 国連機関FAOの長官は“H5N1鳥インフルエンザウイルスは未だ各地で活動していて家きんや人に感染していること”を指摘、体制を強化しなければパンデミックの危険性が再び高まると警告した。
「高病原性」とは鳥に対する病原性を示したものであるが、鳥インフルエンザ(H5N1型) がヒトに感染し発症すると致死率がきわめて高く、2003年以来2013年2月1日 まで検査室で確認されたH5N1鳥インフルエンザのヒト感染は、世界15か国から615例がWHOに報告され、364例が死亡している。
以前は“種の壁”があるため、鳥 インフルエンザウイルスは人間へは感染しないと考えられていた。それは、人のインフルエンザウイルスが人間に感染するために用いる受容体と、鳥インフルエ ンザウイルスが鳥に感染するための受容体は異なったもので、人には人のインフルエンザウイルスの受容体、鳥には鳥インフルエンザウイルスの受容体があり、 それぞれには感染するが、人には鳥インフルエンザウイルスの受容体がないので、これには感染しないと考えられていたからだ。
ところが、研究が進むにつれ、人の肺胞上皮細胞がH5N1亜型のウイルスに感染していることが報告された。そして、ヒトの鼻粘膜、副鼻腔、気管、細気管支、肺胞上皮上で、ヒトインフルエンザに対する受容体と鳥インフルエンザウイルスに対する受容体の分布の研究により、ヒトの終末細気管支と肺胞上皮には 鳥インフルエンザウイルスに対する受容体があることがわかった。
しかし、終末細気管支と肺胞上皮は肺の深部にあるために、鳥インフルエンザウイルスに大量に暴露された場合以外には、鳥からヒトに容易に感染することはなく、かつ、ヒトからヒトへも容易には感染しないと考えられている。また、鶏肉や鶏卵からの感染の報告はない。
インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型が存在するが、通常ヒトに流行を起こすのは、A型とB型であり、新型ウイルスが出現して氾世界流行(パンデミック)を引き起こすのは、A型ウイルス。これまでに判明している高病原性鳥インフルエンザウイルスは、すべてH5亜型とH7亜型のウイルスに限られている。今までのところ、鳥インフルエンザウイルスがヒトからヒトへ効率よく感染する能力を獲得し、新型インフルエンザウイルスとなったことはない。しかし、鳥インフルエンザウイルスが人や鳥類の体内で変異しヒトからヒトへ感染する新型インフルエンザウイルスになる可能性や、ヒトのインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスが同時にヒトや豚に感染、それぞれが混ざり合って、ヒトからヒトへ感染する新型インフルエンザウイルスになる可能性がある。
新型インフルエンザウイルスのパンデミックとしては、鳥インフルエンザではないが、2009年にH1N1が2009-2010年に世界で五分の一以上の人々が感染したと推定される。世界19ヶ国9万検体の血液サンプルでH1N1ウイルス抗体を調べた研究結果では20-27%の人々がウイルスに感染していたとされる。5歳から19歳の小児がもっとも感染していて全体の47%をしめた。一方65歳以上の高齢者は少なく11パーセントであった。
治療については、A型インフルエンザの治療に用いられている抗インフルエンザウイルス薬が鳥インフルエンザでも使われている。
2018年度版 / 2017年度版 / 2016年度版 / 2015年度版 / 2014年度版 / 2013年度版
- Vol.18:
- SFTS 重症熱性血小板減少症候群
- Vol.17:
- 浮遊粒子状物質 PM2.5
- Vol.16:
- 高病原性 鳥インフルエンザ
- Vol.15:
- インフルエンザウイルス
- Vol.14:
- インフルエンザ
- Vol.13:
- 新型コロナウイルス感染症
- Vol.12:
- 核分裂生成物/放射線・放射性物質・放射能/被曝(ひばく)/被曝許容限度
- Vol.11:
- 放射線障害 しくみ/放射線障害 しきい値
- Vol.10:
- ベクレル(Bq)/グレイ(Gy)/シーベルト(Sv)/ベクレル・グレイ・シーベルトの関係/ベクレルとシーベルトの換算
- Vol.09:
- 新しい出生前遺伝学的検査
- Vol.08:
- 臓器移植法改正後の問題点
- Vol.07:
- 子供の脳死と臓器移植
- Vol.06:
- 移植を脳死に頼れるか
- Vol.05:
- なぜ脳死が問題になったか/脳死とはなにか/脳死判定基準
- Vol.04:
- 小児脳死臓器移植/小児脳死臓器移植の今後
- Vol.03:
- 再生医療
- Vol.02:
- iPS細胞年表/iPS細胞概要/iPS細胞用語
- Vol.01:
- 山中伸弥京大教授にノーベル賞/ノーベル賞