有機化学のオキテ48
問題
イオン交換樹脂は、実験室で使う精製水などを簡便につくるのに使われている。イオン交換樹脂は、主にスチレンと少量のp-ジビニルベンゼンの共重合体を母体として、スルホ基を導入したものを陽イオン交換樹脂と呼び、トリメチルアンモニウム塩を導入したものを陰イオン交換樹脂と呼んでいる。両交換樹脂の化学構造は、次のようになる。 イオン交換樹脂は、通常カラムに充填されて、その中に処理液を流す形で使われている。NaCl水溶液中のNaClを定量分析しようとすると、一般に塩化物イオンを分析することになるが、NaCl水溶液をイオン交換樹脂に通すことにより、簡単な分析法で分析できるようになる。次の問に答えなさい。
- (1)陽イオン交換樹脂(官能基は上の化学構造と同じ化学形)にNaCl水溶液を流すと、イオン交換樹脂の官能基の化学形は変わる。NaCl水溶液をイオン交換樹脂のカラムに流して、変わった後の官能基の化学形を書きなさい。ただし、イオン交換樹脂のスチレン部分をRと省略して書くこと。(書き方の例:R-NH2)
- (2)カラムから流出してくる物質の分子式を書きなさい。
- (3)(2)の物質を分析する場合に用いられる一般的な分析法の名称を書きなさい。
<聖マリアンナ医科大学 一部改>
解答と解説
<解答>
- (1)R-SO3Na
- (2)HCl
- (3)中和滴定
<解説>
-
(1)、(2)
上からNaCl水溶液を陽イオン交換樹脂のカラム(円筒)に流すと樹脂表面ではNa+が吸着され、代わりにH+が脱離して次式で表されるようなイオン交換が起こる。一方Cl-は樹脂に吸着されないので下から塩酸が流出してくる。 - (3)カラム(円筒)から流出したHClの物質量と最初のNaClの物質量は等しい。したがって、濃度のわかっている塩基の水溶液で流出液の中和滴定実験を行うと、使用した塩基の物質量からNaClの物質量が求まる。
<補足>
使用した陽イオン交換樹脂にやや濃い塩酸や硫酸を通すと解説の反応の逆反応が起こり、もとの状態に再生できる。
掟48. イオン交換樹脂の基本的な構造や反応を知っておくべし。