有機化学のオキテ33,34

問題

次の文と構造式をもとに、下記の問に答えよ。

グルコース(ブドウ糖)は動物の体内に広く存在している。グルコース分子の鎖状構造式(Ⅱ)は、アルドースとしての構造上の特徴をよく表している。しかし、グルコース分子は水溶液中で大部分が構造式(Ⅰ)あるいは(Ⅲ)で表される環状構造をとっている。構造式(Ⅰ)および(Ⅲ)は、新たに【ア】原子ができたことにより生じた異性体である。これらの異性体(Ⅰ)はα-グルコース、(Ⅲ)はβ-グルコースである。また、グルコースが還元性を示すのは、鎖状構造(Ⅱ)に基づいている。

一方、グルコースの異性体であるフルクトース(果糖)は、ハチミツや果実の中に含まれている。フルクトース分子の鎖状構造は、ケトースとしての構造上の特徴を表している。フルクトースはグルコースと同様に還元性を示す。この理由は、鎖状フルクトース分子の部分構造が還元性を持つためである。

  • 【問1】文中の空欄【ア】に適当な語句を記せ。
  • 【問2】上記の式中のに適当な原子あるいは原子団を入れ、構造式を完成せよ。解答欄には、それらをa、b、cの順で記せ。
  • 【問3】鎖状構造式(Ⅱ)で表されるグルコース分子には、何個の立体異性体があるか。
  • 【問4】文中の下線部に相当する部分構造式を示せ。
  • 【問5】5員環構造をもつβ-フルクトースの構造式を、上の式にならって示せ。
  • 【問6】グルコースが水によく溶ける理由を40字以内で説明せよ。

<東京慈恵会医科大学 一部改>

解答と解説

<解答>

  • 【問1】不斉炭素
  • 【問2】a:H b:OH c:CHO
  • 【問3】16個
  • 【問4、5】
  • 【問6】分子内にヒドロキシ基が多数あり、水分子と水素結合し水和しやすくなっているため。(39字)

<解説>

グルコースは水溶液中で次の3つの構造をとる。

  • 【問1】(Ⅱ)の1位の炭素原子が、(Ⅰ)(Ⅲ)の1位の不斉炭素原子になっている。
  • 【問2】(Ⅰ)と(Ⅲ)では1位の炭素に結合しているHとOHの位置が逆になっている。(それ以外の部分は同一の構造である。)
  • 【問3】(Ⅱ)は不斉炭素原子を4個もつので、立体異性体(光学異性体)数は24=16個となる。
  • 【問4】フルクトースの水溶液が還元性を示すのは、鎖状構造中にアルデヒド基(-CHO)ではなく、ヒドロキシケトン基(-CO-CH2OH)を含むためである。(ヒドロキシケトン基が、アルデヒド基を含む構造に変化して還元性を示す。)。
  • 【問5】次図のように、フルクトースは水溶液中でグルコースと同様に鎖状構造や六員環構造(ピラノース)をとるが、それ以外に五員環構造(フラノース)もとる。
  • 【問6】グルコースは鎖状構造、環状構造ともに1分子中にヒドロキシ基(水酸基)を5個もっている。

<補足>

  • 1 グルコースの環状構造は不斉炭素原子を5個もつので、立体異性体(光学異性体)数は25=32個となる。
  • 2 フルクトースは結晶中では六員環構造(ピラノース)をとる。

掟33. グルコースには鎖状構造で24=16個、環状構造で25=32個の光学異性体が存在することを必ず覚えておくべし。

掟34. フルクトースには鎖状構造、六員環構造(ピラノース)以外に五員環構造(フラノース)があることを知っておくべし。