以下の記事は2014年時の記事です。
Vol.09 「新型出生前診断」
医学の進歩にともない、出生前に子宮内の胎児の状態を診断する出生前診断技術が向上してきている。
現在行われている出生前の診断技術には、超音波検査・絨(じゅう)毛検査・羊水検査・母体血清マーカー検査などがある。一部の疾患については、出生前診断をもとに出生前に子宮内の胎児に対して、または出生後早期の新生児に対して治療することも可能となっている。
しかし、治療の対象とならない先天的異常については、出生前診断を行うことにより、障害が予測される胎児の出生を排除し、ついには障害を有する者の生きる権利と命の尊重を否定することにつながるとの懸念もある。
そして近年、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が開発され、日本でも2013年4月から導入された。
母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査による診断の対象となるのは、染色体の数的異常であり、現在普及している技術は、染色体のうちの特定の染色体(13番、18番、21番)に対するもの。このうち21番染色体のトリソミー(染色体が1本多い状態)がダウン症候群。
これら3つの染色体の数的異常は、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査により診断を行っても、それが治療につながるわけではない。その簡便さだけを理由に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が広く普及すると、染色体数的異常胎児の出生の排除、さらには染色体数的異常を有する者の生命の否定へとつながりかねない危うさを秘めている。
関沢明彦昭和大教授によると、2013年4月に導入されてから9月末までに、全国25の医療機関で約3500人の妊婦が新型出生前診断の検査を受けた。
そのうち、染色体異常の疑いがある陽性と判定されたのは、全体の1.9%に当たる67人。羊水検査などの確定検査で染色体異常を確認したのは56人。数人を除いて人工妊娠中絶を選んだという。また日本医学会は、確定検査を受けずに中絶した妊婦が3人いたと発表した。
新型検査でダウン症が陽性だった場合の精度は、35歳の妊婦で80%。18番目の染色体異常の「18トリソミー」と13番目の異常の「13トリソミー」の精度はさらに低く、いずれも確定検査が必須となる。中絶を選ぶ割合も海外に比べ高いとみられ、医療機関が適切なカウンセリングを行っていたのか、障害に対する社会の理解が十分なのかが問われそうだ。
関沢教授によると、67人の中でダウン症の疑いがあるとされたのは39人で、うち2人は実際には染色体異常がない「偽陽性」だった。ほかに重い心疾患や発達障害を伴う18トリソミーの陽性が23人、うち偽陽性3人。13トリソミーの陽性5人、うち偽陽性1人だった。
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