以下の記事は2013年時の記事です。
Vol.09 「新しい出生前遺伝学的検査」
医学の進歩にともない、出生前に子宮内の胎児の状態を診断する出生前診断技術が向上してきています。
現在行われている出生前の診断技術には、超音波検査・絨(じゅう)毛検査・羊水検査・母体血清マーカー検査などがあります。 一部の疾患については、出生前診断をもとに出生前に子宮内の胎児に対して、または出生後早期の新生児に対して治療することも可能となっています。
しかし、治療の対象とならない先天的異常については、出生前診断を行うことにより、障害が予測される胎児の出生を排除し、ついには障害を有する者の生きる権利と命の尊重を否定することにつながるとの懸念もあります。
そして近年、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が開発され、海外で普及し始めており、米国においては対象を限定した臨床実施が始まりました。母体血を採取するのみで、母体に身体的リスクなく行われるこの検査は、その簡便さから日本においても容易にその市場を広げていくことが予想されています。
母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査による診断の対象となるのは、染色体の数的異常であり、現在普及している技術は、染色体のうちの特定の染色体(13番、18番、21番)に対するものです。このうち21番染色体のトリソミー(染色体が1本多い状態)がダウン症候群です。
これら3つの染色体の数的異常は、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査により診断を行っても、それが治療につながるわけではありません。その簡便さだけを理由に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が広く普及すると、染色体数的異常胎児の出生の排除、さらには染色体数的異常を有する者の生命の否定へとつながりかねない危うさを秘めていると言えるでしょう。
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