以下の記事は2014年時の記事です。
Vol.01 「山中伸弥教授のノーベル賞受賞」
スウェーデンのカロリンスカ研究所は2012年10月8日、iPS細胞(人工多能性幹細胞:induced Pluripotent Stem cell)を開発した山中伸弥(やまなか・しんや)京大教授ら2人にノーベル医学生理学賞を授与すると発表した。
授賞理由は「成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化できることの発見」。
山中教授は2006年、マウスの皮膚細胞に4種類の遺伝子を組み込む方法でiPS細胞を作ることに成功した。2007年11月には、人間の皮膚細胞からのiPS細胞作製に成功した。
先に開発された万能細胞「ES細胞」は、受精卵を壊して作るため倫理的な問題が指摘されていたが、iPS細胞は受精卵を壊さずに作製できる。またES細胞は移植の際、拒絶反応が起きるという問題があったが、iPS細胞を患者自身の体の細胞から作ると拒絶反応を回避できると期待される。
iPS細胞を育てて作った体細胞は、①再生医療、②創薬・疾患研究などに使える素材として期待され、研究が盛んになっている。
山中教授が基礎研究を始めるきっかけは、整形外科の臨床医であった当時の「難病の患者さんを、なんとか治す方法を探したい」という強い思いからであった。
iPS細胞という名前は、山中教授自身が命名したもので最初を小文字の「i」にしたのは、当時世界的に大流行していた携帯音楽プレーヤーの「iPod」のように普及してほしいとの願いが込められているそうだ。
12月に行われた授賞式の後、山中教授は「メダルは大切に保管しておき、もう見ることはない。また一科学者として自分がやるべきことを粛々とやっていきたい。」と述べた。ヒトiPS細胞樹立という偉大な成果を達成したものの、「まだ一人の患者さんも救っていない」という山中教授の言葉が示す通り、新たな挑戦が始まっている。
「iPS細胞とは」
iPS細胞(induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)とは、体中のほぼ全ての細胞に分化し得る能力を人工的に誘導した幹細胞である。
幹細胞とは、複数系統の細胞に分化できる能力(多分化能)と、細胞分裂を経ても多分化能を維持できる能力(自己複製能)を併せ持つ細胞である。
具体的には、まず人間の血液や皮膚などの体細胞に約2万個存在すると言われるヒト遺伝子の中のわずか4つの特定遺伝子(山中ファクター)を導入する。
山中ファクターとは、Oct3/4(オクト・スリーフォー)、Sox2(ソックスツー)、Klf4(ケーエルエフ・フォー)、c-Myc(シー・ミック)。これら4つは転写因子を作る遺伝子で、山中教授らにより同定されたことから「山中ファクター」と名づけられた。ただしその後、癌遺伝子のひとつであるc-Mycは、使わなくてもiPS細胞が作れるようになった。
その後数週間培養すると、体細胞が初期化(既に分化した細胞を未成熟な状態に戻すこと。リプログラミング)されて多能性幹細胞に変化する。この様々な組織や臓器の細胞に分化する能力と、ほぼ無限に増殖する能力をもった多能性幹細胞がiPS細胞である。
このiPS細胞作製方法は、比較的容易であるにも関わらず、高い再現性が得られる画期的な技術であり、幹細胞研究におけるブレイクスルーとなった。
2018年度版 / 2017年度版 / 2016年度版 / 2015年度版 / 2014年度版 / 2013年度版
- Vol.18:
- SFTS 重症熱性血小板減少症候群
- Vol.17:
- ノロウイルスによる感染性胃腸炎
- Vol.16:
- 中東呼吸器症候群(MERS)
- Vol.15:
- 鳥インフルエンザ
- Vol.14:
- インフルエンザウイルス
- Vol.13:
- インフルエンザ
- Vol.12:
- 核分裂生成物/放射線・放射性物質・放射能/被曝(ひばく)/被曝許容限度
- Vol.11:
- 放射線障害 しくみ/放射線障害 しきい値
- Vol.10:
- ベクレル(Bq)/グレイ(Gy)/シーベルト(Sv)/ベクレル・グレイ・シーベルトの関係/ベクレルとシーベルトの換算
- Vol.09:
- 新型出生前診断
- Vol.08:
- 小児脳死臓器移植の現在
- Vol.07:
- 子供の脳死と臓器移植
- Vol.06:
- 臓器移植法改正後の問題点
- Vol.05:
- 移植を脳死に頼れるか
- Vol.04:
- なぜ脳死が問題になったか/脳死とはなにか/脳死判定基準
- Vol.03:
- 再生医療実現化プロジェクト
- Vol.02:
- 再生医療研究と幹細胞
- Vol.01:
- 山中伸弥教授のノーベル賞受賞/iPS細胞とは