有機化学のオキテ23

問題

下記の文を読み(1)~(8)の問いに答えよ。構造式、示性式、反応式を記す場合には、長鎖アルキル基をR、ベンゼン環をベンゼン環、単結合を-、二重結合を=で示せ。

油脂はカルボン酸(脂肪酸)のグリセリンエステルで、動植物の体内に含まれている。高級飽和脂肪酸とグリセリンのエステルは常温で固体であり脂肪と呼ばれ、高級不飽和脂肪酸を多く含むエステルは常温で液体で油と呼ばれる。油脂は単に食品として重要なだけでなく、種々の有機化学原料の製造に用いられている。
油脂を水酸化ナトリウム溶液中で加熱するとエステル結合の加水分解がおこり、高級脂肪酸のナトリウム塩(石けん)とグリセリンが生成する。石けん分子では、細長いアルキル基の部分が水となじみにくい( (A) )性基、カルボキシ基の部分が水となじみやすい( (B) )性基として働くので、少量の油脂を水中に分散させることができ、洗浄作用を発揮する。すなわち、石けん液に少量の油脂を加えて強くかき混ぜると、石けん分子は小油滴を中心に集まり( (C) )基を油滴側に、( (D) )基を水側に向けて配列した形態をとって水中に分散して安定な乳濁液になる。これが石けんの洗浄作用の原理である。(a)石けんは水に溶けて塩基性を示すので、羊毛や絹などの動物性繊維には用いることができない。また、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含む硬水中では、水に不溶性の( (E) )ができて泡立ちが悪くなり、洗浄効果も小さくなる。
これに対して、分子の構成を石けん分子に似せて作った直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩( (F) )や、直鎖アルキル硫酸エステル塩などの合成洗剤の水溶液は中性であり、動物性繊維をいためない。また、硬水中でも( (E) )に相当する物質が水溶性なので洗浄作用に影響を及ぼさない。

  • (1)油脂の構造式を記せ。
  • (2)炭素数をnとして、高級飽和脂肪酸を示性式で記せ。
  • (3)(A)~(D)に適した用語を入れよ。
  • (4)石けんがカルシウムイオンと反応して生ずる(E)を示性式で記せ。
  • (5)(F)のナトリウム塩を示性式で記せ。
  • (6)石けんから脂肪酸を得る方法を、化学反応式で示せ。
  • (7)下線部(a)の理由を簡潔に説明せよ。
  • (8)石けん水が塩基性を示すのに対し、合成洗剤の水溶液が中性を示す理由を簡潔に説明せよ。

<金沢医科大学>

解答と解説

<解答>

  • (1)解答図1
  • (2)Cn-1H2n-1COOH
  • (3)(A)疎水 (B)親水 (C)アルキル (D)カルボキシ
  • (4)(RCOO)2Ca
  • (5)解答図5
  • (6)RCOONa + HCl → RCOOH + NaCl
  • (7)動物性繊維はタンパク質からできているので、石けんなどの塩基により変性してしまうため。
  • (8)弱酸と強塩基の塩である石けんは水に溶かすと電離し、弱酸由来のイオンが加水分解して塩基性を示す。それに対して強酸と強塩基の塩である合成洗剤も水に溶かすと電離するが、加水分解反応はおこらず中性を示す。

<解説>

  • (1)油脂はグリセリンと高級脂肪酸がエステル結合した構造をもっている。
  • (2)高級とは炭素数が多いことを示し、飽和とは炭素原子どうしがすべて単結合で結合していることを示す。
  • (3)石けんは疎水性のアルキル基と親水性の原子団-COO-をもち、水に溶かすと疎水性のアルキル基どうしが内側に集まり、親水性の原子団が外側に配列したミセルを形成する。
  • (4)石けんを硬水で使用すると次式のように反応して、水に不溶性の塩を生じ洗浄能力が小さくなる。
    2R-COO- + Ca2+ → (R-COO)2Ca↓
  • (5)石けんの-COO-のかわりに、-SO3-、-OSO3-などを親水基としてもち、石けん分子に似せて作った洗剤を合成洗剤という。
  • (6)石けんは弱酸の塩なので、強酸を加えると弱酸(脂肪酸)が遊離してくる。
  • (7)羊毛や絹などの動物性繊維はタンパク質を主成分とするので、水に溶かすと塩基性を示す石けんを用いた場合は変性してしまう。このため石けんを動物性繊維には用いることができない。
  • (8)合成洗剤は強酸と強塩基の塩で水に溶かすと中性を示すため、動物性繊維に用いることができる。また Ca2+ や Mg2+ とは不溶性の塩を作らないので硬水中でも使用することができる。

掟23. 石けんの構造や水溶液の性質、ミセルの形成、石けんと合成洗剤との違いについて説明できるようにしておくべし。